これからは、同じ地域、同じ学年の子どもでも、通っている学校によって、教科ごとの授業時間や学び方に違いが広がるかもしれません。
その背景にあるのが、次期学習指導要領に向けて検討されている「調整授業時数制度」です。対象となる教科の授業時間を学校ごとに組み替えやすくし、別の教科、新しい教科、探究や学び直し、教師の研究・研修などに充てる制度案です。
ただし、これは「学校の総授業時間が15%なくなる」という話ではありません。「全国の学校で毎週必ず4コマ減る」という話でもありません。2026年8月18日に文部科学省の公表ページを再確認した時点でも、8月4日に示された取りまとめ案が最新であり、中央教育審議会の答申前、学習指導要領の告示前です。
本記事では、最大15%は何にかかるのか、生み出した時間はどこへ行くのか、学校はどこまで自由に教育課程を組めるのかを、文部科学省の一次資料に沿って整理します。
YouTubeでは、文部科学省の実際の資料を画面に出しながら解説しています。
調整授業時数制度とは?
学校が教育目標や子どもの実態に応じて、教科等の授業時間を一定の範囲で組み替えられるようにする制度案です。
現在も教育課程特例校など、特例の仕組みを使って独自教科や柔軟な時間割を設けている学校はあります。新しい制度案では、こうした柔軟な教育課程編成の考え方を、より一般的な仕組みとして整えようとしています。
ポイントは、単に授業時間を減らして「空き時間」を作る制度ではないことです。ある教科の標準授業時数を下回って設定して生み出した時間を、別の学びへ組み替えることが中心です。

「最大15%」は学校全体ではなく、対象教科ごとの上限案
最大15%は、学校全体の総授業時数ではなく、対象となる教科等それぞれの標準授業時数に対する調整幅の上限案です。
ここで誤解しやすいのが、15%のかかる範囲です。15%は学校全体の総授業時数に一律にかかる数字ではありません。対象となる教科等の、それぞれの標準授業時数に対する調整幅の上限案です。
また、年間の標準授業時数が35コマ以下の教科等は、標準を下回って設定する対象から外す案です。対象教科であっても、調整後の授業時数を35コマ未満にはできないとされています。
もう一つ重要なのは、授業時間を動かしても、学習指導要領に示された教科内容を扱う前提は変わらないことです。「時間を15%動かせる」と「学ぶ内容を15%削ってよい」は、まったく同じではありません。
「週4コマ程度」は最大幅を使った試算
週4コマ程度は、すべての対象教科で最大15%を使った場合の試算です。毎週必ず4コマが動くという意味ではありません。
| 試算対象 | 10% | 12% | 15% |
|---|---|---|---|
| 小学校5年生 | 93コマ | 111コマ | 138コマ |
| 中学校2年生 | 86コマ | 100コマ | 128コマ |
出典:文部科学省「総則・評価特別部会取りまとめ(案)※会議後修正」。すべて2026年8月4日時点の案・試算です。
すべての対象教科で最大幅を使った場合、小学校で約138コマ、中学校で約128コマです。週当たりに換算すると、約4コマ程度が動くイメージになります。
ただし、これはすべての対象教科で最大幅を使った試算です。すべての学校が最大幅を使うという予測ではなく、時間割から毎週固定で4コマが消えるという意味でもありません。文部科学省資料の注記では、教育課程全体の標準授業時数に対する割合は約13%とされています。

動かした時間には3つの行き先がある
生み出した時間は、既存教科への上乗せ、新教科、学習枠や研究・研修等枠を含む裁量的な時間へ組み替える案です。
- 既存の教科等に上乗せする
- 学校独自の新しい教科等を設ける
- 「裁量的な時間」に充てる
たとえば、国語の時間を動かしたら、その時間は必ず国語以外へ移さなければならない、という単純な仕組みではありません。既存教科の上乗せ、新教科、学習枠、研究・研修等枠を組み合わせながら、学校が教育課程全体を設計する考え方です。
このため、制度を見るときは「どの教科が減るか」だけでなく、「動かした時間を何の学びへ組み替えるのか」まで確認する必要があります。
70コマと35コマは、138コマに足す数字ではない
最新案では、「裁量的な時間」全体の上限を年間最大70コマ程度、週2コマ程度とする案が示されています。その内側に、教師の研究・研修等に使う枠を最大35コマ程度、週1コマ程度まで設ける考え方があります。
つまり、35コマは70コマの内数です。70コマと35コマを足して105コマと考えたり、さらに138コマへ足したりする数字ではありません。
また、対象教科で最大15%を使い、裁量的な時間へ70コマを充てた場合でも、小学校では68コマ、中学校では約57コマが残り、既存教科への上乗せや新教科に充てられるという試算です。これも最大値を組み合わせたイメージであり、実際の上限や運用は今後の検討で決まります。
学校独自の新しい教科には4つの条件がある
学校が名前を付ければ、自由に新教科を作れるわけではありません。取りまとめ案では、新教科等について次のような条件が示されています。
- 目標、育てたい資質・能力、指導と評価の計画が系統的に整理されていること
- 単年度のイベントではなく、複数年にわたって継続して実施すること
- 子どもの学習状況を指導要録へ記録すること
- 学校を設置する教育委員会等が、要件や学校運営方針との整合性を確認すること
文部科学省は先行的な取組として、奈良県広陵町立広陵中学校の「広陵探究」や、福島県いわき市立勿来第一小学校の「しあわせ探究科」などを紹介しています。地域課題や学校の教育目標を踏まえた独自の学びですが、これらは現行の特例制度等による参考事例です。最新15%案が全国実施された事例ではありません。
学習枠では何を学ぶのか?
裁量的な時間の一つである「学習枠」は、特定の一教科に当てはめにくい学習や、既存教科の枠だけでは位置づけにくい活動に使う考え方です。取りまとめ案では、主に次の4類型が示されています。
- 子どもが問いを深めたり、学び直したりする個別化した学習
- 探究、情報活用、学び方やメタ認知など、学習の基盤を高める活動
- いじめ防止、安全教育、ソーシャルスキルなど、人間関係の質を高める活動
- 特別支援学校等との交流、地域の大人と行う探究など、地域の実情に応じた活動
ただし、学習枠で教科内容に触れたからといって、その教科で扱うべき内容を省略できるわけではありません。教科の学習は教科として行い、学習枠は追加、発展、試行、学び直しなどに使う整理です。既存の「総合的な学習の時間」との違いや役割分担も、学校の教育課程の中で明確にすることが求められます。

研究・研修等枠は「教師の空き時間」ではない
もう一つの裁量的な時間が、教師の研究・研修等に使う枠です。目的は、教師や学校の力を高め、その成果を授業改善や子どもの学習改善へつなげることです。
教材研究や授業研究、学校や教育委員会が計画する研修、子どもの理解や指導上の課題についての情報共有、地域や関係機関との連携などが想定されています。
一方で、学校の組織的な取組と関係のない個人研究、単なる会議、事務的な連絡、教育の質に直接関係しない通常の校務などへ使うことは、制度の趣旨と異なるとされています。研究・研修等枠を設ける前提として、会議の整理や業務の見直しといった学校運営の改善も求める方向です。
学校が「何でも自由」にできる制度ではない
学校の裁量が広がる一方で、教育課程の質をどのように担保するかも大きな論点です。
最新案では、動かした時間を一つの教科だけへ過度に集中させることや、単なる受験対策に特化した教育課程にすることなど、不均衡な使い方を防ぐ必要があるとされています。
制度の確認は、国、都道府県、市町村教育委員会、学校という複数の層で行う方向です。国は活用状況の把握・公表や制度改善、都道府県は市町村への支援や研修、市町村教育委員会は学校の教育課程の確認や指導、学校は活用方針の公開などを担います。
学校運営協議会がある場合には、活用方針について承認を得る方向も示されています。ただし、承認や届出の具体的な対象・手続きは今後検討される予定です。

いつから始まるのか?
現在の先行的な研究では、対象教科ごとに最大10%程度を上限とする取組が進められています。文部科学省資料では、2026年度に先行的な研究の追加募集を行い、2027年度にさらに拡大する方向が示されています。
そのうえで、次期学習指導要領の全面実施を待たず、2028年度から制度を先行的に使えるようにすることも検討されています。改訂スケジュールのイメージでは、次期学習指導要領は小学校で2030年度、中学校で2031年度から全面実施する見通しです。
ただし、先行利用の時期も、最大15%、70コマ、35コマという上限も、現時点では案・イメージです。答申、告示、制度設計の過程で変更される可能性があります。

まとめ|「減る」より「動く・組み替える」制度案
調整授業時数制度を理解するポイントは、次の5つです。
- 2026年8月時点では、答申・告示前の案である
- 最大15%は、学校全体ではなく対象教科ごとの調整幅の上限案である
- 週4コマ程度は、すべての対象教科で最大幅を使った場合の試算である
- 生み出した時間は、既存教科、新教科、学習枠、研究・研修等枠へ組み替える
- 学校の裁量だけでなく、目標、計画、評価、公開、設置者の確認によって質を担保する
したがって、これは「学校の授業が一律に減る制度」ではなく、学校ごとに教科時間の配分と学びの設計を組み替えやすくする制度案と捉えるのが正確です。
保護者や教育関係者が今後確認したいのは、特定の教科が減るという噂ではありません。学校が何を教育目標に掲げ、どの時間をどこへ動かし、どのように成果を評価・公開するのかです。制度の確定まで、文部科学省の答申・告示と、地域の教育委員会・学校からの公表を分けて追う必要があります。
参考資料
- 文部科学省「教育課程部会 教育課程企画特別部会(第16回)配付資料」
- 文部科学省「総則・評価特別部会取りまとめ(案)※会議後修正」
- 文部科学省「学習指導要領等の改訂に関するスケジュール(イメージ)」
- 文部科学省「先行的に教育課程の柔軟化に取り組む学校の事例」
この記事は塾にどう効くか
今すぐ教材やカリキュラムを変える段階ではありません。2026年8月時点では答申・告示前の案で、具体的な上限や要件も今後決まります。
一方で、同じ地域でも学校ごとに教育課程の重点が変わる可能性があります。塾は、近隣校が何の時間をどこへ組み替えるのかを公表資料で確認できるようにしておくと、保護者への説明がしやすくなります。
保護者への説明材料になるか
説明材料になります。とくに「学校の授業が15%減る」「毎週4コマ少なくなる」という誤解を解くために使えます。15%は対象教科ごとの調整幅の上限案、週4コマは最大幅を使った試算です。
制度が動く場合には、学校が活用方針を公開する方向も示されています。噂や一律の説明ではなく、学校ごとの教育目標と公表資料を確認して伝えることが重要です。
指導・カリキュラムへの影響
現段階では指導内容を変える必要はありません。授業時間を動かしても、学習指導要領に示された教科内容を扱う前提は変わらないためです。
将来、学校ごとの時間配分に違いが出た場合は、定期テストの日程・範囲への学校別対応と、教科の基礎・系統性を守る通常カリキュラムを分けて管理すると整理しやすくなります。
発信のネタとして使えるか
制度名だけでは保護者に伝わりにくいので、「学校ごとに教科の授業時間が変わる?」「15%は学校全体の話ではありません」といった切り口が使えます。
ただし、特定教科が必ず減る、すべての学校で週4コマ動く、といった断定は避けてください。文科省案と自塾の近隣校で決まったことを分けて書く必要があります。
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