2026年2月13日、文部科学省の中央教育審議会「教育課程部会 情報・技術ワーキンググループ」の第6回会合が開催されました。今回の議題は大きく3つ。「メディアリテラシーの現状と検討課題」「AIに関する現状と検討課題」、そして「中学校 情報・技術科(仮称)及び高等学校 情報科の目標・内容」です。
次期学習指導要領(2030年度~小学校全面実施見込み)に向けた議論が佳境に入る中、今回のWGでは、AI教育の内容を「AI自体を学ぶこと」と「AIを活用して学ぶこと」の2軸で体系的に整理する方向性が示され、教育新聞の報道によれば大筋で合意が得られました。
本記事では、この第6回WGの重要ポイントを詳しく解説します。
Youtubeチャンネルでは動画解説も行っておりますので、こちらも合わせて御覧ください。
情報・技術ワーキンググループとは何か?──次期学習指導要領における位置づけ
まず、今回の会議体の位置づけを確認しておきましょう。

情報・技術ワーキンググループは、2025年9月に始動した教科別WGの一つです。中央教育審議会の教育課程企画特別部会が同年9月にまとめた「論点整理」を受けて、各教科の具体的な内容を詰める段階に入っています。情報・技術WGは第1回(2025年9月25日)から回を重ね、今回が第6回です。
このWGの議論は、親会議である教育課程部会の「審議まとめ」に反映される見通しです。前回改訂と同様のスケジュールを仮定した場合、2026年度中に中教審が答申し、2027年度中に新学習指導要領が告示されると想定されています。ただし、文科省は「今後変更の可能性がありうる」としており、あくまでイメージとしてのスケジュールです。
つまり、今まさに「2030年代の教育の中身」を決める議論の核心部分が進行中であり、教育関係者にとって最も注視すべきタイミングにあるということです。
議題①:メディアリテラシー──定義と教育課程上の位置づけが明確に
今回の資料1「メディアリテラシーに関する現状と検討課題について」では、これまで不明確だったメディアリテラシーの定義と教育課程上の位置づけを明確化する方向性が示されました。

現行の学習指導要領では、情報モラルの指し示す範囲や、「メディアリテラシー」として扱うべき内容が不明確でした。情報の吟味や批判的な評価、デジタル社会への参画といった要素が、教育内容として明確に位置づけられていなかったのです。
こうした課題を踏まえ、資料ではメディアリテラシーを「情報活用能力の構成要素であり、情報メディアの特性が受け手に及ぼす影響を踏まえ、情報を社会的・文化的背景の中で吟味し批判的に評価したり、発信したりして社会参画する考え方や態度」と定義しています。
注目すべき整理として、メディアリテラシーは情報モラルとともに、情報活用能力の構成要素である「②適切な取扱い」の一環として扱うことが提案されました。また、「クリティカル・シンキング」が「論理的・合理的に考察し、内省的に思考を振り返りながら、よりよい判断を志向する思考の様式」として定義され、各教科等の学習過程で育まれたクリティカル・シンキングを、核となる教科等で統合的に働かせてメディアリテラシーを育成するという構造が示されています。
背景にあるのは、「社会の分断を防ぎ確かな民主主義の担い手を育成する」という問題意識です。偽・誤情報の拡散や、自分好みの情報ばかりに囲まれる情報環境(フィルターバブル・エコーチェンバー)が社会の分断を招きうるという前提に立ち、市民としての判断力の土台を学校教育で育てようとしています。
一方で、学校ごとの取り組みの差が大きいことも課題として指摘されています。体系的なカリキュラムとして全国に展開するための枠組みづくりが求められています。
議題②:AI教育──「AI自体を学ぶ」×「AIを活用して学ぶ」の2軸で体系化
資料2-3「AIに関する現状と検討課題について」は、今回のWGで最も注目すべき資料の一つです。

資料の出発点にあるのは、教育課程企画特別部会の論点整理から一貫して示されている情報活用能力の3つの構成要素です。正式には「①情報技術の活用」「②情報技術の適切な取扱い」「③情報技術の特性の理解」とされています。今回の資料では、この枠組みに即してAIに関する具体的内容を体系的に整理しています。
まず、「AIを使いこなす力(≒AIリテラシー)」が「単なる操作技能ではなく、AI(生成AIを含む)を適切かつ効果的に活用し、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていく力」と定義されました。
その上で、AIの正負の両面を発達段階に応じて扱い、出力を批判的に吟味しながら利点を生かして活用できるようになることが求められるとされています。資料では、ディープフェイク等の犯罪に巻き込まれるリスクの増加や、AIへの過度な依存による「認知的オフロード」「認知負債」の問題も指摘されています。
具体的な整理の軸として示されたのが、以下の2つの側面です。
「AI自体を学ぶこと」は、主に「②適切な取扱い」と「③特性の理解」に対応し、AIの原理・仕組み・ガバナンス等を学ぶ領域です。「AIを活用して学ぶこと」は、主に「①活用」に対応し、AIを使ったデザインやシミュレーション等、実践的な活用方策を身につける領域です。
情報活用能力の3構成要素と、この2軸の関係を理解しておくと、今後の議論を追いやすくなります。3つの構成要素のうち、どれか1つに偏るとバランスが崩れるという点が重要です。「活用」だけに寄れば、もっともらしい誤情報を見抜けなくなります。「適切な扱い」だけに寄れば、萎縮して「触らない教育」になりかねません。「特性の理解」だけでは、理論は増えても実践力が伴いません。3つをセットで扱うことが、この枠組みの核心だと考えられます。
また、高校段階では「文理を問わず」生成AI時代に不可欠な基礎的素養として「③特性の理解」を身につけるべきだという方向性が示されました。「情報Ⅰ」ではAIに関する独立した内容項目を設けるのではなく、すべての内容項目でAIの特性や適切な取扱いを扱う設計です。

委員提出資料やWGでの議論を踏まえると、「まず自分で考え、次にAIを使い、両者の差を見て判断する」という実践の型が浮かび上がります。先にAIに頼ると自分の基準が曖昧になるため、順番が大事だという考え方は、教育関係者が授業設計する上で非常に参考になるでしょう。
議題③:中学校「情報・技術科(仮称)」と高校情報科の目標・内容
資料3では、中学校の新教科「情報・技術科(仮称)」と高等学校の情報科について、目標や内容、さらに「高次の資質・能力」の具体像が示されました。

中学校段階では、現行の「技術・家庭科」を分離し、情報教育を大幅に拡充する方向が進んでいます。教科の構造としては、「情報技術(仮称)」領域と「情報技術を基盤とした生産技術(仮称)」領域の2つに分かれます。前者では内容項目横断的にAIによる予測・生成の仕組みを学び、後者では各技術領域におけるAIの応用を学ぶ設計です。
木工やものづくりがなくなるわけではなく、各領域の技術とAI・デジタル技術を結びつけた新しい学びに発展させる構想です。
高校の情報科については、小・中学校で身につけた情報活用能力を前提に、高等教育段階の数理・データサイエンス・AI教育との接続を意識した設計が検討されています。文理を問わず全員が学ぶべき基盤として、データサイエンスやAIの特性理解が一層重視される方向です。
教育関係者が注目すべき5つのポイント

ポイント1:「AI教育=プログラミング教育」ではない
今回の議論で明確になったのは、AI教育が「AI自体を学ぶ」と「AIを活用して学ぶ」の両面で構成されるということです。活用・適切な取扱い・特性の理解の3要素をセットで育てる設計が求められており、特に高校段階では文理を問わず特性の理解が重視されています。
ポイント2:評価方法の転換が鍵
「正解を出せたか」ではなく「どう判断したか」のプロセスを評価する仕組みに変わらなければ、理念は空回りします。資料でも「深い学びの実装に向けた評価の在り方については教育課程全体の議論の中で検討する必要」と触れられています。今後の評価改革の議論と連動して注視すべきです。
ポイント3:塾・教育事業者への影響は大きい
中学校の教科再編は、高校入試の出題範囲や配点にも影響しうる変化です。「情報・技術科」が独立教科になれば、塾でも対応する講座やカリキュラムの検討が必要になるでしょう。
ポイント4:教員不足は依然として課題
文部科学省が2022年度に実施した調査(2024年2月公表)では、中学校で技術を担当する教員9,719人のうち23%にあたる2,245人が、技術の普通免許状を持たない教員(臨時免許状・免許外教科担任)でした。新教科に対応できる教員の確保と育成が急務です。
ポイント5:保護者への説明準備を
「なぜAIを学校で教えるのか」「うちの子にプログラミングは必要なのか」という保護者からの質問は確実に増えます。今回示された「AI自体を学ぶ」×「AIを活用して学ぶ」の2軸と、情報活用能力の3つの構成要素(活用・適切な取扱い・特性の理解)の枠組みは、説明の軸として活用できるでしょう。
今後のスケジュール(想定イメージ)

以下は前回改訂と同様のスケジュールを仮定した場合のイメージです。文科省は「今後変更の可能性がありうる」としています。
2026年度中に中央教育審議会による答申、2027年度中に新学習指導要領の告示、2028~2029年度が移行期間(先行実施)、2030年度に小学校全面実施、2031年度に中学校全面実施、2032年度から高校年次進行開始が想定されています。
まとめ
第6回情報・技術WGは、次期学習指導要領における情報教育の具体的な姿がかなり明確になった重要な会議でした。「メディアリテラシー」「AI」「情報・技術科の内容」という3つの議題は、いずれも2030年代の教育現場を大きく変える可能性を持っています。
特に、AI教育を「AI自体を学ぶこと」と「AIを活用して学ぶこと」の2軸で整理し、情報活用能力の3つの構成要素(①活用、②適切な取扱い、③特性の理解)に紐づけて体系化するという枠組みは、教育関係者が今から意識しておくべき重要な視点です。また、メディアリテラシーが「②適切な取扱い」の一環として明確に位置づけられたことも、今後の教育課程を理解する上で押さえておくべきポイントです。今後も議論の動向を注視していく必要があります。
参考資料:
教育課程部会 情報・技術ワーキンググループ(第6回)配付資料(文部科学省) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/118/mext_00002.html
この記事は塾にどう効くか
塾のAIとの向き合い方に直結します。AI教育はプログラミングを教えることではなく、AIを使いこなす力と、AIを理解する力の2軸だという整理です。
評価が「正解を出せたか」から転換する方向も示されており、塾の指導の測り方にも関わります。
保護者への説明材料になるか
使えます。「プログラミング教室に通わせるべきか」という相談に、AI教育の全体像から答えられます。プログラミングは一部にすぎない、という整理は保護者にとって新鮮です。
学校がどこまでやるのかを示せると、塾に何を求めるべきかが保護者側で整理されます。
指導・カリキュラムへの影響
塾でのAI利用方針を決める材料になります。生徒にAIを使わせるのか、使わせないのか。使わせるなら何を教えるのか。ここを曖昧にしている塾が多い領域です。
「AIに答えを出させて終わり」にしない使い方を設計できると、そのまま指導の質になります。
発信のネタとして使えるか
使えます。AIと子どもの学習は、いま保護者がもっとも判断に迷うテーマのひとつです。
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