2026年2月6日、文部科学省の中央教育審議会「教育課程部会 外国語ワーキンググループ(WG)」の第8回会合が開催されました。次期学習指導要領(2030年度~小学校全面実施予定)に向けて、今回のテーマは「活動を通した指導の在り方」。3名の有識者からのヒアリングを踏まえ、外国語教育の根幹に関わる重要な方向性が示されました。

本記事では、この第8回会合の重要ポイントを教育関係者向けに詳しく解説します。

Youtubeチャンネルでは動画解説も行っておりますので、こちらも合わせて御覧ください。


そもそも外国語ワーキンググループとは?

外国語ワーキンググループは、中央教育審議会(中教審)の教育課程部会のもとに設置された作業部会で、次期学習指導要領における外国語(主に英語)教育の具体的な内容を検討する場です。2025年9月24日の第1回から議論が重ねられ、今回で第8回を迎えました。

2025年9月に公表された教育課程企画特別部会の「論点整理」で示された大きな方向性(「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」の3つの柱)を踏まえつつ、外国語教育に特化した具体策が議論されています。

第7回(2026年1月21日)では「語彙の取扱い等の在り方」が議題となり、指導すべき語彙を選定した「基盤語彙リスト」の作成方針が打ち出されました。今回の第8回は、その流れを受けて「活動を通した指導の在り方」、特に「言語活動」と「練習」の関係性という、外国語教育の核心に迫るテーマが扱われています。


第8回会合の概要

日時: 令和8年(2026年)2月6日(金)9:30~12:00 場所: 文部科学省東館5F6会議室(WEB会議との併用) 議題:「活動を通した指導の在り方」について

会合の流れは以下の通りです。

まず事務局(文部科学省)から資料1「活動を通した指導の在り方」についての説明があり、続いて3名の有識者がそれぞれ20分程度で発表と質疑応答を行いました。発表者は、鈴木祐一氏(早稲田大学国際学術院准教授/資料2)、和泉伸一氏(上智大学外国語学部教授/資料3)、阿野幸一氏(文教大学国際学部教授/資料4)の3名です。その後、休憩を挟んで約1時間の意見交換が行われました。


解説スライド:今日お話しする5つのポイント/外国語WGの流れ

ポイント①:「言語活動」の要素を2つに整理──これが最大の論点

今回の会合で最も注目すべきは、文科省が資料1で示した「言語活動」の再整理です。

現行の学習指導要領では、「言語活動」について必要な要素が明確に規定されていません。そのため、外国語の多様な活動のうちどこまでを「言語活動」に含めるのかについて、学校現場での受け止め方や解釈にばらつきがみられるという課題がありました。語彙や文法などの知識・技能を指導する効果的な方法が分かりにくいという声も上がっていたのです。

こうした課題を踏まえ、次期学習指導要領では「言語活動」を以下の2つの要素に整理する方針が示されました。

解説スライド:理解と表現の質を/高める活動/語彙・文法の正確さ向上

要素① は「コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて外国語で理解したり、表現したり、伝え合ったりする活動」です。これは主に思考・判断・表現を育成する活動に位置づけられます。

要素② は「外国語による理解と表現の質を高める活動」です。これは主に知識・技能を育成する活動に位置づけられます。

文科省は、①と②を相互に連携・往還しながら一体的に育成していくイメージを提示しました。さらに、家庭学習との連携も視野に入れています。

この整理により、これまで学習指導要領上の位置づけが曖昧だった「練習」(語彙や文法の正確さを高めるための活動)が、要素②として言語活動の中に正式に位置づけられることになります。筆者としては、これは次期学習指導要領の外国語教育における大きな方向性の変化だと捉えています。


ポイント②:有識者3名の発表──「練習」の再評価と位置づけ

鈴木祐一氏(早稲田大学国際学術院准教授):ISLA(教室内第二言語習得)の観点から

鈴木氏は、教室内第二言語習得研究(ISLA)の知見に基づき、「練習」の再構築を提言しました。

現行の学習指導要領では、小学校と中学校には「言語活動」における「練習」についての記載がありますが、高校には記載がありません。鈴木氏は、言語活動を充実させるものとして「練習」を明確に定義し、言語活動と有機的に組み合わせるべきだと主張しました。

解説スライド:インプット/「本来まず考えなければいけないのは、

特に重要なのは、鈴木氏が指摘したインプットの重要性です。「日本ではアウトプット練習が足りないから言語活動が重要だと言われてきた。その通りで、アウトプットは非常に重要だ。しかし、本来まず考えなければいけないのは、どのようなインプットを与えているかだ。そのインプットが充実して文脈のある中で分かって、興味のあるものでなかったら、アウトプットにつなげることはできない」と強調しました。

また、「発達段階に応じた内容・言語材料の高度化に伴い、カリキュラムにおける練習の比重を調整したり、言語活動との接続方法の選択肢を明示したりすることが重要だ」とも述べています。

和泉伸一氏(上智大学外国語学部教授)

和泉氏は、「フォーカス・オン・フォーム」(意味中心のコミュニケーション活動の中で、必要に応じて言語形式にも注意を向ける指導法)やCLIL(内容言語統合型学習)の第一人者として知られています。今回の発表の詳細は教育新聞等の報道では取り上げられていないため、具体的な内容は文科省のウェブサイトで公開されている資料3(PDF)を直接ご確認ください。

阿野幸一氏(文教大学国際学部教授):中学校現場の実態から

阿野氏は、学校現場での成功事例と課題の両面を報告しました。学校現場では「言語活動」が定着しつつあり、生徒がこれまでよりも多く話したり書いたりするようになった一方、生徒の文法や語彙の誤りに不安を抱く教員が増えていることを紹介しました。

解説スライド:言語活動と/言語活動が/練習が分断/現場に定着

その結果として、多くの教員が「言語活動とは別に」問題集などで正確な文法や語彙を指導するようになったものの、言語活動と切り離されてしまっているという課題が生じていると指摘。「言語活動で知識・技能の力をどう上げていくかというときに、考えや気持ちを伝え合う言語活動を行うのと同時に、その言語活動を支える正確さなどを高める練習を学習指導要領で明示していかなければいけない」と述べました。


ポイント③:委員からの意見──「①②の分離」への懸念

有識者の発表を受けた意見交換では、文科省が示した「2つの要素」の整理に対して、委員から重要な懸念が表明されました。

解説スライド:短絡的な解釈/「1=従来の言語活動、2=練習」

バトラー後藤裕子委員(ペンシルベニア大学教育大学院教授)は次のように懸念を示しました。「①と②を分けることによる分かりやすさはあると思うが、その弊害もある。①が従来の言語活動に当たって、②が練習のようなものに当たるといった解釈ができてしまうのではないか。今までの言語活動が思考・判断・表現に対応するものであり、練習が知識・技能に対応するものであるといったような短絡的な解釈ができ、それが独り歩きしてしまう」。

この指摘は非常に重要です。筆者の考えとしても、もし現場で「①=コミュニケーション活動」「②=ドリル練習」と単純に二分されてしまうと、せっかくの「連携・往還」という趣旨が失われてしまう恐れがあります。①と②が別々に行われるのではなく、授業の中で有機的に結びつくことが求められているのです。

内田諭委員(九州大学大学院言語文化研究院准教授)も「何が②に当たるのか。何が練習に当たるのかは、検討する必要がある。例えば単語の意味を答える活動や、和文英訳のような伝統的なものは、②に入るのかどうか。入るのであれば教科書にそういう練習問題が入ってくる可能性があるので、その辺りの線引きの議論を詰めていくべきだ」と指摘しました。さらに「説明をどこでどれだけ、いつするのかということも検討の余地がある。文法や単語の理解のための説明をどのタイミングで、どのくらいするのかも議論する必要がある」と述べています。

なお、個人ブログによる会合の視聴報告(※公式議事録はまだ公開されていません)によれば、工藤洋路委員(東京外国語大学大学院教授)からは「排される言語活動とはどんなものを指し、それに取って代わるものとは何か?」という「名と体」に関する本質的な疑念が述べられたとのことです。また、亘理陽一委員からは「言語使用」のうちの「英語使用」を取り上げ、「外国語科」「英語科」だからこそ考えておくべき特質・特徴に関わる注釈がなされたと報告されています。これらの発言の正確な内容については、今後公開される公式議事録での確認をお勧めします。


ポイント④:授業中の日本語使用──「英語で授業」の誤解を解消へ

今回の会合では、授業中の日本語使用についても重要な方向性が示されました。

現行の学習指導要領では、中学校や高校の授業は「生徒の理解の程度に応じた英語で行うことを基本とする」とされています。しかし、この規定が「授業中の日本語使用を禁止している」という誤解を生んでいるとの指摘がなされてきました。

解説スライド:誤解の解消へ/♥ 今後の方針/A 現在の誤解

今回の会合では、英語で授業を行う方針は堅持しつつ、学習指導要領解説において、教師が補助的に日本語を使用したり、生徒の母語使用が考えられたりする場面や留意事項について記載する方針が示されました。

これは現場の先生方にとって大きな意味を持つ変更です。特に、文法の説明や語彙の意味確認など、日本語で行った方が効率的・効果的な場面について、学習指導要領解説に具体的に示されることで、教員が安心して適切な判断を下せるようになることが期待されます。


ポイント⑤:中学校の文法難易度の適正化──「受け身」を具体例に

第7回で打ち出された「語彙の基盤語彙リスト作成」に続き、今回は中学校の文法についても難易度の適正化を図る方針が示されました。

現行の学習指導要領のもとでは、語彙数や文法事項が増加した結果、難易度の高い語彙や文法の用法なども含まれるようになり、指導や学習の負荷が増しています。

解説スライド:受け身/(全用法)/(主要用法のみ)

具体的な変更例として「受け身」が挙げられました。現在の教科書の中には、現在進行形の受け身や現在完了形の受け身なども掲載されており、難易度に幅がありました。改訂後には「受け身(現在、過去、willを用いた未来など)」と、文法項目のうち使用頻度の高い用法を具体的に示すことで、難易度を適正化する考えです。中学校から外す内容のうち、必要なものは高校で扱うことを明確にします。

これは前回の第7回会合で示された語彙の問題(語彙数の増加・難易度の上昇が学習意欲の低下や教員負担の増大を招いている)と同じ文脈にある施策です。「教える内容を増やす」方向から「本当に必要な内容に焦点化する」方向へのシフトと言えるでしょう。


前回(第7回)からの流れを整理

今回の第8回を理解するためには、第7回の議論を把握しておくことが有用です。

第7回(2026年1月21日)では「語彙の取扱い等の在り方」が議題となり、以下の重要な方針が示されました。

現行の学習指導要領では、英語で取り扱う語彙数は小学校600~700語、中学校1600~1800語、高校1800~2500語の合計4000~5000語とされています。しかし、語彙数の増加に加えて難易度も上昇し、教科書によって扱う語彙にばらつきが生じていました。東京外国語大学の投野由紀夫教授は、小学5・6年生の教科書で基準の600~700語を超過する教科書が複数あり、中には1000語を超えるものもあったと報告しています。

そこで文科省は、使用頻度の高い重要な語彙を選定してリスト化する「基盤語彙リスト」の作成を提案しました。複数のコーパス(大規模なデータベース)を参照して作成し、リストに掲載された語を教科書で使用するよう推奨する仕組みです。

第7回の語彙リスト→第8回の文法適正化+言語活動の再整理という流れで、次期学習指導要領における外国語教育の具体像が急速に固まりつつあります。


解説スライド:第7回→第8回 議論の流れ/語彙の取扱い等の在り方

教育関係者が押さえておくべき5つのポイント(まとめ)

第一に、「言語活動」が2つの要素に再整理される方向性が示されました。 ①コミュニケーション活動(思考・判断・表現の育成)と②理解と表現の質を高める活動(知識・技能の育成)の2つに分けた上で、両者を連携・往還させる方針です。これまで位置づけが曖昧だった「練習」が、言語活動の中に正式に位置づけられることになります。

第二に、有識者から「練習」の再評価と位置づけの明確化が提言されました。 鈴木祐一氏はインプットの充実と練習の有機的な組み合わせを、阿野幸一氏は言語活動と練習の一体化を学習指導要領に明示すべきだと主張しています。

第三に、この「2要素の整理」に対する懸念も表明されています。 ①と②が単純に二分され、「①=コミュニケーション」「②=ドリル」と短絡的に解釈される危険性が複数の委員から指摘されました。今後の議論で、この懸念にどう対処するかが焦点になります。

第四に、授業中の日本語使用について、学習指導要領解説で補助的な日本語使用が考えられる場面を具体的に記載する方針が示されました。 「英語の授業は英語で」という原則を維持しつつも、教員の適切な日本語使用を後押しする動きです。

第五に、中学校の文法難易度が適正化されます。 「受け身」を例として、使用頻度の高い用法に絞って示す方針が具体的に提示されました。中学校から外す内容は高校で扱うことを明確にします。


今後の見通し

外国語ワーキンググループの議論は引き続き行われ、2026年夏頃までに教育課程企画特別部会での一定の取りまとめが予定されています。中教審としての答申は2026年度中を目指しており、その後、学習指導要領の告示、教科書の作成・検定・採択を経て、2030年度から小学校で全面実施される見込みです。

解説スライド:今後のスケジュール/♥教育課程企画特別部会での取りまとめ

今回の第8回で示された「言語活動の2要素への整理」は、今後の教科書の作り方や授業設計に直結する極めて重要な方針です。「練習」がどのように定義され、教科書や授業にどう反映されるかは、英語教育に携わるすべての先生方にとって大きな関心事でしょう。一方で、バトラー後藤裕子委員や内田諭委員が指摘した「短絡的な二分法」への懸念は、現場への浸透を考える上で避けて通れない論点です。

また、「言語活動」という用語の扱いそのものや、高校の「英語の授業は英語で」という原則の運用見直しを求める声など、制度の根本に関わる意見も出ています。今後の議論の行方を注視していく必要があるでしょう。

なお、第8回の公式議事録は本記事執筆時点(2026年2月12日)では未公開です。公開され次第、委員の発言内容をより詳細に確認できるようになりますので、あわせてご参照ください。


参考資料:

この記事は塾にどう効くか

塾がやっている反復練習の正当性を裏づける内容です。言語活動と練習は対立するものではなく、両方が要るという整理が示されました。

中学英語の難易度適正化も論点に上がっており、現場の負担が認識されつつあります。

保護者への説明材料になるか

使えます。「うちの塾は音読や書き取りをやらせます」という方針に、専門家の議論という裏づけを添えられます。

コミュニケーション重視の風潮のなかで、基礎練習を軽視する保護者もいます。その説得材料になります。

指導・カリキュラムへの影響

いまの指導を続ける根拠になります。練習を軽視しないという方向は、多くの塾がすでにやっていることです。

ただし練習だけで終わらせず、使う場面につなげる設計が求められる点は押さえておく必要があります。

発信のネタとして使えるか

使えます。「英語は音読が大事」といった指導論は、保護者にも読まれるテーマです。

自塾で書くなら、専門家の議論を引きつつ、自塾でやっている練習メニューを具体的に示すのが効果的です。

塾のホームページ、今のままで大丈夫か診断します

制度の変化を保護者に伝える場としても、ホームページは使えます。スマホ表示・問い合わせ導線・情報の鮮度を、塾専門の視点で無料チェックします。

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