高校選びでは、「まず普通科へ」「数学が苦手なら早めに文系へ」と考えたくなる場面があります。安心できそうな道を探すこと自体は、決して悪いことではありません。ただ、その判断が本人の関心や将来を確かめる前に行われると、選択肢を早く閉じてしまう可能性があります。
2026年9月16日、FNNプライムオンラインは、文部科学省の合田哲雄(ごうだ・てつお)高等教育局長へのインタビューを公開しました。そこで語られたのが、高校から大学までの進路を考える際に乗り越えたい「3つの思い込み」です。
この記事では、合田局長の発言、文部科学省が公表済みの政策、中央教育審議会で審議中の次期学習指導要領案を分けながら、保護者・学校・塾が進路選択で確認したい点を整理します。
合田局長は何を問題提起したのか?
FNNのインタビューで合田局長が挙げたのは、次の3つです。
- 高校は「とりあえず普通科」と考えること
- 「女子は文系」と決めつけること
- 理数科目を早くやめて受験科目へ集中し、偏差値の高い首都圏の大規模大学なら安心だと考えること

普通科や文系、首都圏の大学を否定した発言ではありません。本人の関心や、その学校・大学で実際に学べる内容を確認する前に、大人の思い込みで進路を決めていないかという問いです。
文部科学省は2026年2月に「高校教育改革に関する基本方針」を公表し、専門高校の強化、普通科の特色化、地域によらず多様な学びへアクセスできる環境づくりを示しました。学科名だけで高校を選ぶのではなく、教育内容を比較する必要性が高まっています。
インタビュー発言は文科省の正式決定なのか?
合田局長は大学政策などを担当する高等教育局長です。その発言には、政策を担う立場からの重みがあります。一方、報道機関のインタビューで示した見解を、そのまま文部科学省の正式決定と扱うことはできません。
今回の内容は、次の3段階に分けて読む必要があります。
- 合田局長がインタビューで示した問題意識
- 文部科学省が公表済みの高校改革基本方針
- 中央教育審議会で審議中の次期学習指導要領等に向けた「審議まとめ(案)」
2026年9月25日の教育課程企画特別部会第18回では、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」が資料として配付されました。9月28日時点でも正式な学習指導要領ではなく、学校の教育課程や入試が全国一斉に変更された段階ではありません。
AIが答える時代に、知識は不要になるのか?
結論から言えば、審議まとめ案は「知識が不要になる」とは述べていません。むしろ、AIに適切な問いを出し、回答の正しさや妥当性を確かめ、責任を持って判断するためには、人の側に知識が必要だと整理しています。
見直しの対象になっているのは、意味を理解しないままの丸暗記や、知識量だけを競う学びです。各教科の主要な概念を理解し、別の学習や生活でも使える「確かな知識」として身につける方向が示されています。
つまり、AI時代に必要なのは「覚えなくてよい教育」ではありません。
- 問いを立てる
- AIや資料から得た答えを確かめる
- 自分で考えて判断する
- 判断の根拠を他者へ説明する

この一連の過程を支える知識が、これまで以上に重要になります。

「好き・得意」と基礎学力は両立するのか?
審議まとめ案では、子どもの「好き」を育み、「得意」を伸ばすことを、学び全体の動機へつなげる方向が示されています。同時に、教科の「確かな知識」を身につける重要性も強調されています。
好きなことだけを学べばよいという話ではありません。教科の学習を通して世界を広げ、その中から新しい関心や得意分野を見つけることも含まれています。
塾の現場に置き換えると、点数を上げる指導をやめるという意味ではありません。問題を解けるようにすることに加えて、「この内容が何につながるのか」「何が分かるようになったのか」まで本人へ返すことが、学ぶ動機を支えます。
「女子は文系」「数学を早く捨てる」はどう扱われているか?
審議まとめ案の算数・数学に関する部分では、理数の成績に大きな男女差が見られない一方、自信や進路意識には差があることが指摘されています。また、私立大学の文系学部を志望したことを契機に、数学の学習を諦める生徒がいるという課題も示されています。

ここでも、全員を理系へ進ませる方針ではありません。本人が選べる進路を、性別や周囲の思い込みによって狭めないための議論です。
数学や理科を履修しないと決める前に、志望する学部で何を学ぶのか、入試科目や入学後の授業で何が必要になるのかを確認する必要があります。条件は大学・学部ごとに異なるため、各大学の最新の募集要項や入試予告で確認します。
テストや入試はなくなるのか?
審議まとめ案は、ペーパーテストや入試を廃止する内容ではありません。
思考・判断・表現を評価する際には、ペーパーテストに加えて、論述、レポート、発表、作品制作などを組み合わせる方向が示されています。高校入試でも、知識の確認に加えて、概念の理解や考える力を問う問題を充実させる方向です。
ただし、入試の具体的な方法は各教育委員会や学校などが決めます。「次の入試から全国一斉に変わる」と決まったわけではありません。
点数を見ることと、長期的な成長を見ることは二者択一ではありません。点数だけで学習を終わらせず、何を理解し、どこで使えるようになったかまで確認することが大切です。
保護者が進路選択で確認したい3つのこと
進路を決める前に、次の3点を確認します。
- 本人は何に関心を持っているか
- その高校で実際に何を学べるか
- 志望大学・学部の教育内容と入試科目は何か

高校については、学科名だけでなく、スクール・ポリシー、開講科目、探究活動、大学や地域との連携、進路実績を合わせて見ます。
大学については、偏差値や大学名だけでなく、学部・学科のカリキュラム、取得できる資格、卒業後の進路、入試科目を確認します。特に文理選択の前には、将来候補になりそうな学部が数学・理科をどの程度求めるかを調べておくと、選択肢を残しやすくなります。
まとめ――安心できる道より、理由を説明できる選択へ
合田局長のインタビューは、普通科や文系を否定するものではありません。AI時代の学びと進路を考える際に、本人の可能性を大人の思い込みで狭めていないかを問い直す内容です。
次期学習指導要領等に向けた審議まとめ案にも、AI時代の確かな知識、多様な子どもの深い学び、「好き・得意」を学ぶ動機へつなげる考え方、理数の進路選択に関する記載があります。
ただし、現時点では審議中です。個々の学校や大学の教育内容・入試条件は、それぞれの最新情報を確認する必要があります。
進路選択で大切なのは、周囲が安心できる道を先に決めることではなく、本人が「なぜこの学校で、この分野を学びたいのか」を少しずつ説明できるようにすることです。
参考資料
- FNNプライムオンライン「デジタル化や生成AIの進化で学校教育も激変」
- 文部科学省「教育課程企画特別部会(第18回)配付資料」
- 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)(第1・2部)」
- 文部科学省「高校教育改革に関する基本方針」
- 中央教育審議会「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」
- NBER Working Paper 34910 “AI, Human Cognition and Knowledge Collapse”
この記事は塾にどう効くか
進路面談で、学科名や性別、偏差値だけを先に置かないための確認軸として使えます。本人の関心、高校で学べる内容、大学・学部の教育内容と入試科目を順に確かめてください。
次期学習指導要領はまだ審議中です。塾のカリキュラムを直ちに変える段階ではありませんが、理数科目を切る時期や理由を、生徒ごとに点検する価値があります。
保護者への説明材料になるか
なります。『普通科や文系を否定する話ではない』『AI時代も知識は必要』『入試が次から全国一斉に変わる決定ではない』という3点を先に伝えると、過度な不安を避けながら進路の選択肢を話せます。
面談では、高校名や大学名を決める前に、本人の関心、開講科目、探究活動、志望学部のカリキュラムと入試科目を一緒に確認してください。
指導・カリキュラムへの影響
目の前の得点を支える役割は変わりません。加えて、解けるようになった内容が何につながるのか、どこで使えるのかを返すことで、学ぶ動機と進路を結びつけやすくなります。
文理選択前の生徒には、数学や理科を履修しないと決める前に、候補となる学部の募集要項や入試予告を確認する時間を設けると実務に落とし込めます。
発信のネタとして使えるか
使えます。『うちの塾では文理選択の前に何を確認するか』『高校名より先に見る3項目』など、自塾の進路面談の考え方として発信できます。
合田局長の発言を文科省の正式決定と書かず、2026年9月25日の資料も『審議まとめ案』と明示してください。制度の煽りより、自塾で実際に行う確認を具体的に示す発信が信頼につながります。
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