4月に制服が7万円、学校で使うパソコンが6万円。翌月には修学旅行費11万円の請求――。公立高校に入ったばかりの、あるご家庭の話です。2026年10月17日、ABEMAのニュース番組『わたしとニュース』が、授業料以外に家庭が払うお金、いわゆる“隠れ教育費”を特集し、Yahoo!ニュースでも多くのコメントが集まりました。

番組では、慶應義塾大学の中室牧子教授が「学校指定品は適正な競争が行われず、高い金額になっている」と指摘しています。では、その学校指定品は誰が、どうやって決めているのか。公正取引委員会の調査と、文部科学省がまとめた自治体の事例から整理すると、学校や教育委員会が見直せる部分がかなりあることが見えてきます。

高校無償化でも残る“隠れ教育費”|制服・修学旅行の学校指定品は誰が決めている? https://youtu.be/DwP6eTGhGSo

解説スライド:ある家庭の2か月。4月に制服7万円・パソコン6万円、5月に修学旅行11万円
出典:ABEMA『わたしとニュース』(2026年10月17日)の紹介をもとに作成

番組で紹介された「買い直し」の声

番組では、こんな声が紹介されていました。

  • 中学のカーディガンは6〜7色から選べたのに、高校は4色だけ。サイズは合っているのに買い直し
  • 水着も中学で使っていたものが使えず、学校用を買い直し
  • ネクタイが2色あって、2本買う
  • 市販なら500円ほどのTシャツが、体育着になると2,900円(番組スタッフの例)

「近所の指定の用品店で買わないといけなくて、高くついた」という声もありました。

学校指定品は、なぜ高くなりやすいのか

ここで出てくるのが、公正取引委員会(公取委)が2017年に行った「公立中学校における制服の取引実態に関する調査」です。全国の公立中学校から600校を選び、書面調査と聞き取りをしています。

  • 制服を指定している学校は98.6%。ほぼすべてです
  • 制服一式(制服にシャツやネクタイなどの指定品を合わせたもの)で最も多い価格帯は、3万円以上3万5,000円未満
  • 直近5年度で、指定の販売店などを定期的に見直した学校は16.1%

つまり8割以上の学校は、「昔からこのお店」「昔からこのメーカー」のまま続いているということです。

グラフ:販売店を定期的に見直した学校は16.1%(6校に1校ほど)
出典:公正取引委員会「公立中学校における制服の取引実態に関する調査」(2017年)をもとに作成

SNSでは「学校と業者の癒着では」という声も見られます。ただ、調査から見えてくるのは悪だくみというより、誰も見直していないという構造のほうです。

公取委は、条件ごとの平均価格も比べています。同じ市の中で制服のデザインをそろえる「共通化」をしている自治体では、男子ブレザーの平均が24,215円。共通化していない自治体では33,017円でした。計算すると、差は約8,800円です。

グラフ:男子ブレザーの平均価格。共通化あり24,215円、共通化なし33,017円(差 約8,800円)
出典:公正取引委員会「公立中学校における制服の取引実態に関する調査」(2017年)をもとに作成

学校が案内する販売店の数でも差があります。男子ブレザーの平均は、販売店が1店だけのとき34,025円、4店以上のとき32,902円。差は数%ですが、統計的な分析でも「販売店が増えると値段は有意に下がる」という結果が出ています。中室教授が番組で指摘したのも、この点です。指定販売店が1店しかなければ、お店には値段を下げる理由がありません。

誤解のないように言うと、お店が悪いのではありません。選び方が「競争の起きない形」になっているということで、その選び方は学校側が決めています。

見直した学校・自治体は何をしたのか

では、見直すと本当に安くなるのか。公取委は2023年に、2017年の調査のその後を検証しています。番組では「平均価格が約7%下がった」と紹介されていましたが、報告書の表現を正確に書くとこうです。

コンペや入札、見積もり合わせなど、提言したことを何か1つでも実施した学校では、実施から3年後に制服の価格が6.9%下がる効果があった。ブレザー上下1着あたり、おおむね2,000円程度です。公取委は、制服以外の学用品でもメーカーや販売店を指定している慣行があるなら、同じように見直せば値段は下がるはずだ、とも書いています。

解説スライド:コンペ・入札・見積もり合わせなどを実施した学校では、3年後に制服の価格が6.9%下がる効果(ブレザー上下でおおむね2,000円程度)
出典:公正取引委員会「学校制服の取引実態に関する事後検証報告書」(2023年)をもとに作成

アイルランド:服は市販品、校章は後付け

中室教授が番組で紹介したのがアイルランドです。2017年、教育省が学校に通達を出し、制服はどこのお店でも買える一般的なものを選ぶこと、校章はアイロンで貼るか縫い付けるタイプにすることを求めました。校章が最初から付いた服を決まったお店でしか買えない、という形が値段を上げる原因になるからです。ただし、現地でも徹底は学校によってまちまちという指摘があります。

大阪府寝屋川市:市販品+学校のワッペン

日本にも同じ発想の自治体があります。大阪府寝屋川市の中学校では、今年度から、色や素材などの大まかな「標準的な仕様」に合っていれば市販品を着てもよいことにしました。その代わり、どこの学校の生徒か分かるように、学校ごとに決めたワッペン(またはピンバッジ)を付けます。

文部科学省がまとめた事例によると、指定メーカーのブレザーが約2万5,000〜3万円のところ、市販品なら約1万円。ズボンやスカートも約1万5,000円が約5,000円になるとされています。計算すると、一式で約2万5,000〜3万円軽くなります。

解説スライド:大阪府寝屋川市のワッペン方式。指定メーカー品のブレザー約2.5万〜3万円、市販品+学校のワッペンなら約1万円。ズボン・スカートは約1.5万円が約5,000円
出典:文部科学省 事務連絡(2026年7月17日)別添2をもとに作成

そして、このきっかけを作ったのは中学生です。市立中学校の生徒会の代表が集まる「寝屋川市中学生サミット」で、子どもの権利条約を学び、校則について話し合いました。そこで生徒から「指定品は高くて、家の負担になっている」「学校の決まりを満たしていれば、市販品でもいいはずだ」という意見が出て、PTAや学校運営協議会への説明を経て実施に至っています。校則の見直しというと髪型や靴下の色の話になりがちですが、「家のお金」という視点で話し合った例として参考になります。

埼玉県さいたま市、そして国の動き

さいたま市は、制服の見直しに合わせて値段を下げたほか、運動着・水着・通学かばんなどの指定品を指定先以外でも買えるようにルールを変えました。上履きと体育館履きを1つにまとめた例もあります。

文部科学省は2026年7月、こうした事例を全国の教育委員会に周知しました。省内には「学校教育に係る保護者の負担軽減プロジェクトチーム」ができており、補助教材や学用品について「使用頻度や負担に値するか」という観点で必要性を考え直すよう求めています。算数セットや彫刻刀を学校の備品にした札幌市、柔道着をリユースで貸し出している別府市、指定の体育服をやめて各自の体育服の上から指定のビブスを着る例も紹介されています。国としても「見直していいし、見直してほしい」という方向で動き出しているわけです。

修学旅行の無償化と「ヤードスティック競争」

値段を下げる流れとは別に、「自治体が払う」流れもあります。東京都葛飾区は2025年度から区立学校の修学旅行費を無償化しました。区の資料によると、中学3年生の修学旅行で一人あたり約8万円を区が負担し、対象は2,926人、予算は2億3,408万円です。番組では、中3の修学旅行先がシンガポールの港区の例も紹介されていました(番組の紹介では約38万円のうち保護者の負担は5万円)。

ここで中室教授が注意していたのが「ヤードスティック競争」です。自治体同士が「隣と比べて」サービスを競ううちに、「それは本当に教育に必要なのか」という問いが抜け落ちてしまうおそれがあります。手厚い補助ができる自治体とできない自治体があり、住んでいる場所で家庭の負担が大きく変わることも、新しい格差になりえます。

「自治体が払う」はお金のある自治体にしかできません。でも、「本当に必要か見直す」「競争が起きる選び方にする」は、どこの学校でもできます。

保護者に「なんでこんなに高いの?」と聞かれたら

教育関係者として保護者から「制服とか指定品、なんでこんなに高いんですか?」と聞かれたら、次の3つを伝えられるとよいと思います。

  1. 決めているのは学校・教育委員会。だから見直せる。 学校指定品は国が決めているものではありません。文科省も、保護者やPTAと話し合う場をつくって見直してほしいとしています。「決まりだから仕方ない」ではなく、「学校に相談できますよ」と伝えられます。
  2. 「どこまで指定するか」を分けて考える。 ブレザーは学校のものでも、シャツや靴下、かばん、上履きはどうか。寝屋川市のように「服は市販品、学校の印はワッペン」という方法もあります。全部をやめるのではなく、指定の範囲を分けて考えると話が前に進みやすくなります。
  3. 今困っている家庭が使える仕組みを知っておく。 制度を変えるには時間がかかります。自治体によっては制服や運動着のリユースがあり、高校生の場合は、高校生等奨学給付金を学校が代わりに受け取って授業料以外の教育費と相殺できる仕組みもあります。地域で何が使えるかを一度確認しておくと、相談されたときにすぐ答えられます。
解説スライド:保護者に聞かれたら。①決めているのは学校・教委だから見直せる ②どこまで指定するか分けて考える ③今困っている家庭の仕組み(リユース・奨学給付金など)

まとめ

“隠れ教育費”のなかでも学校指定品は、販売店やメーカーが長く見直されないまま、競争が起きにくい形になっていることが公取委の調査で分かっています。そして見直した学校では、実際に値段が下がっています。寝屋川市のように、約2万5,000〜3万円のブレザーが市販品とワッペンで約1万円になる例も出てきました。しかもきっかけは中学生の話し合いでした。

一方で、自治体が費用を払う無償化には、地域ごとの差や「それは本当に必要か」という問いが抜け落ちる心配もあります。払うかどうかは自治体次第ですが、見直すことはどこの学校でもできます。

参考資料

この記事は塾にどう効くか

塾の運営が直接変わる話ではありません。ただ、保護者が「授業料以外にいくらかかるのか」に敏感になっているのは、塾にも同じように当てはまります。

学校の指定品が「誰も見直していない」ことで不信を招いているように、塾でも教材費・季節講習・模試代などが入塾後に分かる形だと、同じ受け止め方をされかねません。

保護者への説明材料になるか

なります。保護者から「制服や指定品がなんでこんなに高いの?」と聞かれたら、「決めているのは国ではなく学校・教育委員会なので、学校に相談できます」「全部をやめるより、どこまで指定するかを分けて考えると話が進みやすい」と伝えられます。

今困っている家庭には、自治体の制服リユースや、高校生等奨学給付金を学校が代わりに受け取って授業料以外の費用と相殺できる仕組みがあることも添えられます。地域で何が使えるかは、事前に確かめておくと安心です。

塾の料金の伝え方への影響

教える中身は変わりません。見直したいのは料金の見せ方です。月謝だけでなく、入塾金・教材費・季節講習・模試・システム料など「授業料以外」も含めた年間の目安を、入塾前に分かる形で示しておくと、保護者の不安を先回りして解消できます。

「この教材は本当に必要か」を年に一度見直す、という姿勢を示すことも信頼につながります。文科省が学校に求めている「使用頻度や負担に値するか」という観点は、塾の教材選びにもそのまま使えます。

発信のネタとして使えるか

使えます。“隠れ教育費”は保護者の関心が高いテーマなので、「学校の制服代、実は見直せる?」という切り口は読まれやすいです。

あわせて、自塾の「授業料以外にかかる費用」を一覧で載せる記事にすると、話題性と信頼の両方につながります。ただし、学校や業者を批判する書き方は避け、「仕組みの話」として紹介するのが無難です。

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