2026年4月6日、中央教育審議会 教育課程部会の国語ワーキンググループ(第7回)が開催されました。次期学習指導要領の改訂に向けて各教科のWGが精力的に議論を進める中、国語WGでは「思考力、判断力、表現力等」の整理と「評価の在り方」という、教育現場に直結する2つの重要テーマが議論されています。
本記事では、この第7回WGで示された検討事項の重要ポイントを詳しく解説します。
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国語WGの位置づけと議論の全体像
まず、国語ワーキンググループの位置づけを確認しておきましょう。
2024年12月に文部科学大臣が中教審に「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方」を諮問し、2025年9月に教育課程企画特別部会が「論点整理」を取りまとめました。この論点整理を受けて、国語を含む各教科のワーキンググループが2025年秋から始動しています。
国語WGは、2025年9月の第1回から回を重ね、今回が第7回です。これまでの議論では、「言葉を使う目的(仮称)」による話や文章の種類の整理(第2回)、「高次の資質・能力」の案の提示(第5回)などが行われてきました。
第7回では、大きく分けて以下の3つの論点が検討されています。
論点1:「話や文章の機能(仮称)」の検討
論点2:「思考力、判断力、表現力等」の事項の構造的な示し方
論点3:「高次の資質・能力」の在り方(ver.3)
そして議題(2)として評価の在り方も議論されています。
論点1:「話や文章の機能(仮称)」とは何か?──5つのカテゴリで国語を再整理
今回の第7回WGで最も注目すべきポイントが、この「話や文章の機能(仮称)」という新しい概念です。
これまで第2回WGでは、「言葉を使う目的(仮称)」という整理軸が提案されていました。具体的には「情報の伝達/情報の獲得」「他者の説得/他者の主張の吟味」「感動の共有/感動への共感」という3つの目的で話や文章の種類を整理するものでした。
今回の第7回では、この「目的」による整理を一歩進め、社会的な文脈の中で話や文章が果たす主な機能という観点から再整理することが提案されています。つまり、「言葉を使う目的(仮称)」に代えて「話や文章の機能(仮称)」を用いる方向への転換です。
具体的には、以下の5つの機能カテゴリが示されました。
①「事実や知識の整理と理解」
事物や事象の構造・しくみ・特徴・因果関係などを整理し、筋道立てて分かりやすく示すことを通して、理解を促す機能です。説明文や解説文、報告文などがこれに該当します。
②「考えや主張の理由付けと吟味」
考えや主張を理由や根拠と結び付けて筋道立てて示すことを通して、判断や納得を促し、必要に応じて考えや行動に働きかける機能です。論説文、意見文、提案などが該当します。
③「思いや経験の表出と想像」
経験や想像した出来事・情景、思いや心情などを多様な表現の工夫によって描き出すことを通して、想像し、感じたり考えたりすることを促す機能です。詩、短歌、俳句、物語、小説、随筆などが該当します。
④「協働による深化や合意」
他者と協働して互いの考えや情報を出し合い、吟味・調整することを通して、理解や考えを深め、合意形成や意思決定に向かうことを促す機能です。質疑応答、議論、討論などの話し合い活動が該当します。
⑤「伝統的な言語文化の継承と創造」
時代を越えて先人の知や洗練された言語感覚を伝えることを通して、その重要性を理解し、意義や価値を現代に生かすことを促す機能です。古文・漢文などの古典がこれに該当します。
注目すべきは、第2回WGの3分類から5分類に拡大されたことです。特に「協働による深化や合意」と「伝統的な言語文化の継承と創造」が独立したカテゴリとして追加されました。これは、話し合い活動や古典学習が国語教育において独自の位置づけを持つことを明確にする意図があると考えられます。
なぜ「機能」で整理するのか?──現場にとっての意味
この再整理の背景には、次期学習指導要領の大きな方針である「分かりやすく使いやすい学習指導要領」の実現があります。
現行の学習指導要領では、国語の「思考力、判断力、表現力等」は「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」という領域ごとに整理されています。しかし、現場の先生方からは「各領域の学習がバラバラになりがちで、深い学びにつながりにくい」という声がありました。
「話や文章の機能」で整理することにより、例えば中学2年で「事実や知識の整理と理解」という機能に着目すれば、「読むこと」の単元で説明文を読む学習と、「書くこと」の単元で解説リーフレットを書く学習と、「話すこと」の単元でプレゼンテーションをする学習を相互に関連付けて配列できるようになります。
つまり、「説明する」という機能を軸にして、読む→書く→話すという一連の学習を系統的に組み立てることが可能になるのです。これは、現場の先生方にとっては単元づくりの見通しが立てやすくなるという大きなメリットになります。
論点3:「高次の資質・能力」ver.3──何が変わったのか
第7回では、「高次の資質・能力」の改訂案(ver.3)も示されました。
これは、学習指導要領の各領域で育成を目指す最上位の目標にあたるものです。第4回WGで示された案から改訂され、以下のような構造になっています。
「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」として、各領域ごとに目標が設定されています。例えば「書くこと」の領域では、「相手や状況、目的に応じて、文章の書き方を工夫することにより、考えや思いをよりよく伝えることができる」と示されています。
ver.3の特徴は、「目的などに応じて」という表現が「相手や状況、目的に応じて」に変更された点です。「相手」と「状況」が明示されたことで、コミュニケーションの実際的な場面がより意識されるようになっています。
「統合的な理解」(知識及び技能の側面)についても、「社会生活に必要となる言葉の様々な意味や働き、使い方等を身に付け、相手や状況、目的に応じて使うことにより、理解や思考、表現の質が高まることを理解している」とされ、同様に「相手や状況」が追加されています。
背景にある課題──全国学力テストが示す「書く力」の弱さ
こうした国語教育の再整理が進む背景には、子どもたちの学力に関する課題があります。
2025年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では、国語の記述式問題の正答率が依然として低い状況が続いています。中学校国語の平均正答率は54.6%で、特に記述式の正答率は25.6%にとどまりました。自分の考えを根拠を示して書く力に課題があることが改めて浮き彫りになっています。
こうした課題を踏まえると、「話や文章の機能」を意識した系統的な指導──特に「考えや主張の理由付けと吟味」の機能に着目した学習の充実──が、記述力向上の鍵になると考えられます。
評価の在り方──3つの観点すべてが大きく変わる
第7回WGの議題(2)として「評価の在り方等」が議論されています。今回の資料では、国語科における評価改革の具体的な方向性が、かなり踏み込んだ形で示されました。
「思考・判断・表現」の評価──単元全体で「ひとまとまり」の評価に
現行では、学習過程ごとに細分化して「思・判・表」の評価を行う傾向がありました。しかし、短い単元で特定の学習過程だけを評価しようとすると、十分に思考・判断・表現を深められないまま単元が終わってしまう状況が指摘されています。
改善の方向性として、単元全体を通した一連の思考・判断・表現のパフォーマンス(書き上げた文章など)について総括的評価を行い、その過程では形成的評価(学習改善のためのフィードバック)に重点を置くことが提案されています。
「知識・技能」の評価──複数単元をまたぐ長期的視点
「知識及び技能」については、各単元の学習過程では形成的評価に重点を置き、総括的評価は複数の単元の学習を経た後にまとめて行うことが提案されています。国語科の知識・技能は、様々な文脈で繰り返し活用することで「生きて働く知識」として身に付くものであり、1回のペーパーテストだけで評価すべきではないという考え方です。
「学びに向かう力・人間性等」の評価──「◯」付記という新しい仕組み
最も大きな変革が「学びに向かう力・人間性等」の評価です。現行の「主体的に学習に取り組む態度」は目標準拠評価として評定に反映されていましたが、これを教育課程全体を通じた個人内評価に変更します。
ただし「評価しなくてもよくなる」わけではありません。新たに「思考・判断・表現」の観点別評価に「◯」を付記するという仕組みが導入されます。具体的には、以下の「学びに向かう力の3要素」を思考・判断・表現の過程で一体的に見取ります。
初発の思考や行動・好奇心:学習活動で考えたり感じたりしたことを自ら進んで言葉で表現しようとしているか
学びの主体的な調整:自分の言葉による思考・判断・表現を捉え直し、よりよいものに改善しようとしているか
対話や協働:言葉の意味や働きに着目して、他者と協働しようとしているか
これらの「見取る姿(仮称)」は国が各教科ごとに示し、各学校がそのまま活用可能なものとする方針です。単元ごとに「◯」を付ける運用は求めず、一定の評価期間全体を通じた「継続的な発揮」を見取る形になります。
教育現場にとって重要なのは、この改革が「ペーパーテスト偏重の評価からの脱却」を強く意図している点です。論述やレポート、発表、グループでの話し合いといったパフォーマンス評価が、今まで以上に重視される方向に向かいます。
今後のスケジュールと残された課題
国語WGを含む各教科のワーキンググループは、2026年夏ごろまでに取りまとめを行う予定です。その後、親会議である教育課程部会で「審議まとめ」が出され、2026年度中に中教審が答申する見通しとなっています。
答申を踏まえて新学習指導要領が告示され、2030年度から小学校で全面実施、2031年度から中学校、2032年度から高校で順次実施される想定です。
残された課題としては以下が挙げられます。
「話や文章の機能」の実際の授業への落とし込み:5つの機能カテゴリが示されたが、教科書や指導案にどう反映されるか
「◯」付記の運用設計:「見取る姿(仮称)」の具体的な文言や、「◯」が評定にどう影響するかの詳細は引き続き検討
小学校低学年のキーボード入力:国語科とデジタルリテラシーの接続(「デジタル学習基盤を支える文字入力の扱い」が検討事項に含まれている)
古典教育の系統的接続:小中高での古典学習の接続をどう改善するか
「高次の資質・能力」の評価上の扱い:直接の評価対象とはせず、教師が単元を構想する際の活用ツールとする方向が示されたが、具体的な運用の整理が必要
まとめ
第7回国語WGでは、「話や文章の機能(仮称)」という新たな整理軸により、国語教育の「思考力、判断力、表現力等」を5つのカテゴリで構造的に示す方向が提案されました。これは「分かりやすく使いやすい学習指導要領」を目指す今回の改訂の核心部分です。
教育関係者にとって重要なのは、この再整理が単なる理論上の変更ではなく、授業の組み立て方そのものに影響するという点です。「話す・聞く」「書く」「読む」の各領域を「機能」で横断的に結び付ける発想は、単元づくりや教材選定に直結します。
今後も議論の動向を注視していく必要があります。
参考資料:
この記事は塾にどう効くか
読解指導の枠組みに関わりますが、いま変える必要はありません。説明文・物語文という分け方が消えるわけではなく、別の見方が加わるという理解が正確です。
「この文章は何のために書かれたのか」を意識させる指導は、方向として合っています。
保護者への説明材料になるか
面談で使う場面は限られます。制度の細部すぎて、保護者の関心とは距離があります。
使うとすれば「国語の指導は何を目指しているのか」を説明する背景としてです。国語は成果が見えにくい教科なので、方向を語れると安心されます。
指導・カリキュラムへの影響
読解教材の扱い方に応用できます。設問を解くだけでなく、「この文章は読者に何をさせようとしているか」を一言考えさせる。それだけで、示された方向に沿った指導になります。
教材の入れ替えは不要です。
発信のネタとして使えるか
優先度は低めです。専門的すぎて保護者向けには届きにくいテーマです。
書くなら、同じ国語WGのより新しい回の記事のほうが読まれます。こちらは背景資料として置いておく位置づけが妥当です。
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