2026年8月31日、文部科学省の中央教育審議会・教育課程企画特別部会で、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」が示されました。

資料は全4分冊、合計1,055ページです。AI・情報教育だけでなく、学校の時間割、教科書、通知表、高校の単位、各教科の学び方、入試との接続まで、次の改訂をめぐる論点がまとめられています。

最初に確認したいのは、これは新しい学習指導要領そのものではなく、審議まとめの素案だという点です。方向性はかなり具体的になりましたが、授業時数や教科名、評価方法などには今後の審議で変わる可能性があります。

Edu-NEWSでは、これまで国語、算数・数学、外国語、情報教育など、各教科のワーキンググループを継続して追ってきました。今回の資料は、その議論が学習指導要領全体の仕組みとしてどうつながるのかを示したものです。

この記事では、学校と学習塾に関係が深い変化を7つに整理し、決まったことと、まだ決まっていないことを分けて解説します。

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全4分冊・合計1,055ページの次期学習指導要領審議まとめ素案を示す解説図
今回示されたのは、全4分冊・合計1,055ページの「審議まとめ(素案)」です。

今回示された資料は何ですか?

今回示されたのは、次期学習指導要領に向けた審議まとめの素案です。正式な答申、告示、新しい学習指導要領の本文ではありません。

全体を貫く方向として示されたのは、次の3つです。

  • 主体的・対話的で深い学びの実装
  • 多様性の包摂
  • 実現可能性の確保
文部科学省の資料に示された主体的・対話的で深い学びの実装、多様性の包摂、実現可能性の確保という3つの方向
文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」第2章より。改訂全体を貫く3つの方向が示されています。

「何を学ぶか」だけでなく、子どもの違いにどう対応するか、学校現場が実際に運用できる形にできるかまで、一体で考える構成になっています。

7つのポイントで見ると、学校はどう変わりますか?

素案全体から学校と塾への影響を整理すると、主な変化は7つです。時間、内容、評価、個別対応、高校の選択肢までを一体で組み直す提案になっています。

  1. 学習指導要領そのものを、構造化し、デジタルでも使いやすくする
  2. 教える内容と教科書を精選し、学びを深める「余白」をつくる
  3. 学校が教科間の授業時間を組み替えやすくする
  4. 通知表・成績評価を、学びの改善につながる形へ見直す
  5. AI・情報教育を小学校から高校まで体系化する
  6. 不登校や特異な才能などに応じた教育課程をつくりやすくする
  7. 高校の科目・単位を柔軟にし、教科の学び方も再設計する

ここから、一つずつ見ていきます。

学習指導要領そのものはどう変わりますか?

学習指導要領を、教師が授業づくりに使いやすい構造へ整理し、デジタルでも参照しやすくする方向です。

現行の学習指導要領は、本文、解説、関連資料を行き来しなければ、目標や内容のつながりをつかみにくい面があります。素案では、目標、内容、学習活動、評価の関係を見通しやすくし、必要な情報へたどり着きやすい形が検討されています。

これは単なるPDFの電子化ではありません。教員が「この単元で何を目指し、どのような学びを組み立て、何を見取るのか」を確認しやすくする、学習指導要領の使い方そのものの見直しです。

「余白」をつくると、授業や教科書はどうなりますか?

教える内容を重点化・構造化し、実験、対話、説明、探究、学び直しに使える時間をつくる方向です。「何もしない時間」を増やすという意味ではありません。

ここでいう余白は、何もしない時間ではありません。実験、話し合い、文章での説明、探究、つまずきの学び直しなどに使う時間です。教師が教材を研究し、授業を改善するための時間も含めて考えられています。

ただし、現時点で「教科書が薄くなる」と決まったわけではありません。どの内容を残し、どう関連づけ、教科書でどこまで扱うかは、今後の具体化を待つ必要があります。

学校の時間割はどう変わりますか?

「調整授業時数制度」により、年間の標準総授業時数を増やさず、学校が教科間の時間を組み替えやすくする方向です。

総授業時数を増やさず教科の時間を情報・探究・学び直しへ組み替える調整授業時数制度の解説図
最大15%程度は対象教科ごとの調整幅を置いた試算です。全ての学校で一律に減らす制度ではありません。

素案の試算では、対象教科ごとに標準時数の最大15%程度を調整できる枠組みが示されています。全てを上限まで使う例では、小学校5年で138コマ、中学校2年で128コマが調整可能な時数として示されました。

しかし、全ての学校で授業が15%減るという意味ではありません。15%は対象教科ごとの上限を置いた試算であり、制度の利用は義務ではありません。また、時間を動かしても、学習指導要領に示された内容を扱う前提は変わりません。

近隣の複数校から生徒が通う塾では、将来、学校ごとに探究や情報教育の比重が異なる可能性があります。定期テストへの学校別対応と、教科の系統性を守る通常のカリキュラムを分けて考えることが重要になります。

通知表・成績評価はどう変わりますか?

評価を、点数をつけるためだけでなく、子どもが次にどう学ぶかを伝えるために使う方向が強まります。

態度だけを切り離した評価を見直しフィードバックを重視する方向を示す解説図
見直しが提案されているのは、現在の観点別評価の扱いです。「通知表廃止」が決まったわけではありません。

特に、現在の観点別評価にある「主体的に学習に取り組む態度」を、他の観点から切り離してA・B・Cで評価する仕組みは、見直しが提案されています。毎時間の挙手回数や提出物の見た目だけで態度を判断するのではなく、子どもが学び方を調整し、理解を深めた過程をどう見取るかが論点です。

これは、態度の評価や通知表をなくすと決まった話ではありません。評価の対象と示し方を整理し、日常のフィードバックと学期・学年末の評価をどう組み合わせるかが、今後検討されます。

塾でも、正答数だけでなく、「どの根拠を使ったか」「どこで考えを修正したか」「次に何を復習するか」を言葉にさせる指導が、学校の評価との接続を考えるうえで重要になります。

AI・情報教育はどこまで広がりますか?

小学校から高校まで、情報活用能力を段階的に育てる体系が強化されます。生成AIの操作だけでなく、出力の検証、リスク、仕組み、限界までを扱います。

小学校では、総合的な学習の時間に「情報の領域」を加える方向です。中学校では技術・家庭科を再編し、「情報・技術科」を新設する案が示されています。高校では、情報Ⅰ・情報Ⅱを含む情報科をさらに充実させます。

学ぶのは、生成AIの操作方法だけではありません。AIの出力を確かめること、誤情報やバイアスを見抜くこと、著作権や情報モラルを考えること、仕組みや限界を理解することまで含まれます。

AI・情報教育の詳細は、関連記事で小学校の学習内容、授業での活用、時間の確保まで整理しています。

関連記事|小学校からAI教育へ。何を学ぶ?

不登校や特異な才能への対応はどう変わりますか?

不登校や特定分野で突出した力を持つ子どもなどに対し、一人ひとりの状況に応じた「特別の教育課程」を編成しやすくする方向です。

学校、本人、家庭が相談しながら学び方を調整する仕組みが検討されています。

大切なのは、対象となる子どもが自動的に別のカリキュラムへ移る制度ではないことです。本人の状態や希望を踏まえ、学校が教育的な必要性を判断し、学びの保障と社会的なつながりをどう両立するかが前提になります。

塾が支援に関わる場合も、学校の代わりに独自判断で進めるのではなく、本人・家庭・学校との情報共有を丁寧に行う必要があります。

高校の科目・単位はどう変わりますか?

半年で完結する科目や、教科をまたぐ科目を置きやすくし、生徒が学ぶ内容を柔軟に選べる仕組みが提案されています。

高校の単位計算を50分35回から50分17回へ細かくし半年科目や教科横断科目を置きやすくする案の解説図
単位の物差しを細かくする案です。卒業に必要な学習量を2倍にする提案ではありません。

そのために、1単位を計算する基準を、現在の「50分を35回」から「50分を17回」へ細かくする案が示されています。卒業に必要な単位数も74単位から148単位という表記になりますが、これは単位の物差しを半分にするためで、学習量が2倍になるという意味ではありません

また、一部の必履修科目について、外部試験などで一定の力を確認できた場合に履修を免除し、より発展的な学びへ置き換える考えも示されています。まず数学と外国語が検討対象です。ただし、具体的な試験、基準、公平性の確保は今後の論点です。

塾にとっては、学校ごとの科目選択や進度の違いが広がる可能性があります。高校生向けの進路面談では、大学入試科目だけでなく、学校でどの科目をいつ履修するかまで確認する必要が出てきます。

国語・数学・理科・社会などの学び方はどう変わりますか?

各教科では、知識を覚えることに加え、根拠を使って考え、説明し、他者と検討する学びが一段と重視されます。

  • 国語では、文章や資料の根拠を確かめ、目的に応じて読み、表現する力
  • 算数・数学では、答えだけでなく、考え方を説明し、複数の方法を比較する学び
  • 理科では、予想、実験、結果、考察をつなぎ、根拠をもって説明する学び
  • 社会では、資料やデータを比較し、社会的な課題を多面的・多角的に考える学び
  • 外国語では、実際の目的や場面を想定し、意味のあるやり取りを重ねる学び

数学では、高校の数学A・B・Cの構成をまとめ直す案など、科目構成そのものの検討も進んでいます。最終的な科目名や内容は確定していませんが、共通するのは「知っているか」だけでなく、「使って説明できるか」を重視する流れです。

新しい学習指導要領はいつから始まりますか?

2028年度から情報教育を一部先行し、2030年度以降に小・中・高で順次全面実施する想定です。いずれも今後の審議を前提としたスケジュールです。

素案が示す検討スケジュールでは、2026年冬ごろに審議まとめを行い、その後、答申や告示、教科書づくり、学校現場の準備へ進む想定です。

素案で示された実施スケジュールの方向
年度想定されている動き
2028年度小学校の情報教育を一部先行実施する方向
2029年度中学校の情報教育を一部先行実施する方向
2030年度小学校で全面実施する想定
2031年度中学校で全面実施する想定
2032年度高校で入学生から順次実施する想定

出典:文部科学省「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」。正式な実施時期は今後の答申・告示で確認が必要です。

いずれも現段階では、今後の審議を前提とした方向・想定です。正式な実施時期は、答申や告示を確認する必要があります。

まだ決まっていないことは何ですか?

方向は見えましたが、授業時数、教科書、通知表、教員体制、高校科目、入試との接続など、学校や塾の実務を左右する細部は未確定です。

  • 教科ごとの具体的な授業時数と、15%という上限の最終形
  • 教科書で扱う内容と分量
  • 通知表の様式と観点別評価の具体的な扱い
  • 「情報・技術科」の教員免許、担当者、研修体制
  • 高校の科目名、単位、外部試験による履修免除の条件
  • 大学入試・高校入試との接続
  • 学校現場に必要な教員数、予算、設備

「通知表がなくなる」「国語や算数が15%削減される」「高校の学習量が2倍になる」といった表現は、現段階では正確ではありません。見出しの強さと、資料に書かれた決定段階を分けて確認する必要があります。

塾は今から何を準備すべきですか?

今すぐ教材を総入れ替えする必要はありません。保護者説明、根拠を説明する授業、生成AIの利用ルール、学校別情報の確認という土台を整える段階です。

  1. 保護者へ、決定事項と検討中の案を分けて説明する
  2. 正答だけでなく、根拠・説明・振り返りを残す授業を増やす
  3. 生成AIを使う場面、禁止する場面、確認方法を言語化する
  4. 近隣校の教育課程や時間割の重点を継続して確認する
  5. 高校生の科目選択と入試科目を、早めに照合する

制度の名前だけを追うより、自塾の面談、授業、宿題、進路指導のどこに影響するのかを一つずつ確認した方が、実務につなげやすくなります。

まとめ

今回の審議まとめ素案は、AI教育だけを追加する改訂ではありません。学校が使う時間、教える内容、評価の仕方、一人ひとりへの対応、高校での選択肢を、一つの仕組みとして組み直そうとする提案です。

大きな方向は見えてきましたが、正式決定ではなく、具体的な授業時数や通知表、科目、入試との接続はこれから詰められます。塾としては、必要以上に急いで変えるのではなく、一次資料と決定段階を確認しながら、保護者説明と日々の指導を少しずつ整えるのが現実的です。

Edu-NEWSでは、今後、この1,055ページの資料を前編・後編に分けて詳しく解説します。各教科のワーキンググループを扱った過去動画と合わせて見ることで、議論がどのように今回の素案へつながったのかも確認できます。

参考資料

この記事は塾にどう効くか

今すぐ教材や時間割を変える段階ではありません。今回は審議まとめの素案で、具体的な授業時数、通知表の様式、科目名などは未確定です。

ただし塾の面談・指導設計に関わる方向は見えました。学校ごとの時間再配分、評価方法の見直し、情報・AI教育の体系化、高校科目の柔軟化を継続して確認する必要があります。

保護者への説明材料になるか

説明材料になります。最初に「正式決定ではなく審議まとめの素案」と伝えたうえで、時間割、評価、情報教育、高校の選択肢という生活に近い順に説明すると、全体像を整理しやすくなります。

とくに「国語や算数が一律15%減る」「通知表がなくなる」「高校の勉強量が2倍になる」という理解は正確ではありません。制度の試算と最終決定を分けて伝えることが重要です。

指導・カリキュラムへの影響

現段階で教材を買い替える必要はありません。まずは既存授業の中で、答えだけでなく、根拠を選ぶ、考えを説明する、振り返って修正する活動を増やすことから始められます。

生成AIを使う場合は、使用した箇所、確認した情報源、本人が直した内容を残す運用が有効です。近隣校の時間配分や高校の科目選択に違いが出た場合に備え、学校別対応と基礎の系統学習を分けて管理する視点も必要になります。

発信のネタとして使えるか

使えます。ただし制度名の要約だけでなく、「自塾では根拠を説明する学びをどう扱うか」「生成AIを宿題でどう使うか」など、自塾の方針まで示すと保護者に役立つ発信になります。

不安をあおる見出しは避け、2026年8月31日時点では素案であること、今後の答申・告示で内容が変わり得ることを明記してください。

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