3cm・4cm・5cmの直角三角形の面積を求める問題。2021年度の全国学力・学習状況調査で、小学6年生の正答率は55.4%でした。2026年10月、この問題の図と正答率をのせた投稿がX(旧Twitter)で大きく広がり、大人たちが「ヘロンの公式で一発」「三角関数で高さを出す」と高度な解き方を披露し合う、ちょっとした大喜利のような状態になりました。

ただ、国立教育政策研究所の報告書まで確認すると、子どもたちのつまずきは「直角が上にあるから底辺が分からなかった」だけでは説明できません。間違えた子が実際に何を書いたのかを見ると、もっと根の深い課題が見えてきます。

本記事では、この問題の結果と誤答の中身を、報告書のデータをもとに詳しく解説します。

YouTubeでは、実際の問題と報告書のグラフを画面に出しながら解説しています。

解説スライド:小学6年 算数 正答率55.4%/正答 3×4÷2=6(cm²)

どんな問題だったのか

出典は、令和3年度(2021年度)全国学力・学習状況調査の小学校算数、大問2の(1)です。実施日は2021年5月27日。前年度の2020年度は新型コロナウイルス感染症による一斉臨時休業の影響で調査そのものが行われなかったため、2年ぶりの実施でした。集計の対象になった小学6年生は100万5,600人です。

問題文は「図1のような直角三角形があります。図1の直角三角形の面積は何cm²ですか。求める式と答えを書きましょう」というものです。図は3cm・4cm・5cmの直角三角形で、直角は上の頂点にあり、5cmの辺が水平な底側に置かれていました。

正答は、式が「3×4÷2」、答えが「6」です。式と答えの両方を書く必要があります。三角形の面積は5年生の「図形」で学ぶ内容で、習ってからおよそ1年後に確かめたことになります。

この年の算数全体の平均正答率は70.3%でした。その中で55.4%ですから、平均よりかなり低い問題だったと言えます。

令和3年度 全国学力・学習状況調査 小学校算数 大問2(1)の問題
出典:国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査 小学校算数 調査問題」

間違えた子は何を書いたのか

国立教育政策研究所の報告書には、解答の種類ごとの割合が載っています。主なものは次のとおりです。

  • 3×4÷2=6(正答):55.4%
  • 3×4×5、または3×4×5÷2(3つの長さを全部使う):20.0%
  • 3×4=12(2で割るのを忘れる):8.4%
  • 5×4÷2や5×3など(5cmの辺を底辺にする):8.3%
  • 無解答:1.5%

Xでは「直角が上にあるから、底辺と高さが分からなかった」という説明が広がっていました。確かに、5cmの辺を底辺にしてしまった子は8.3%います。これはまさに「下にある辺が底辺だ」と思い込んだパターンです。

しかし、それよりはるかに多かったのが、3つの長さを全部掛けてしまった子で、約20%。実に5人に1人です。報告書はこの子たちについて、三角形の面積を求める公式について理解しておらず、示されたすべての辺の長さに着目して立式しており、必要な情報を選び出すことができていない、と分析しています。

つまり、この問題の一番大きな落とし穴は、図の向きそのものよりも、どの数字を使い、どの数字を使わないかを選べなかったことにあります。

ちなみに、Xで話題になったヘロンの公式も、3つの辺の長さをすべて使って面積を出す公式です(高校の数学Ⅰで学ぶ内容です)。3つの長さが目に入ると全部使いたくなる、という点では、大人がヘロンを思い浮かべるのも、小学生が「3×4×5」と書くのも、出発点は同じなのかもしれません。違うのは、大人はそれで正しく答えが出せる道具を持っていて、小学生はまだ持っていないということです。

解説スライド:解答の内訳。正答55.4%、3×4×5など20.0%、3×4=12が8.4%、5cmを底辺が8.3%、無解答1.5%
出典:国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査 報告書」をもとに作成

同じ「三角形の面積」でも、正答率はここまで下がる

全国学力調査では、過去にも三角形の面積が出題されています。報告書が比べているのは次の問題です。

  • 2007年度:底辺6cm・高さ4cmの三角形(底辺が下にある、教科書どおりの向き)……89.5%
  • 2009年度:方眼の上に描かれた三角形の面積を求める式……67.1%
  • 2021年度:今回の直角三角形……55.4%

同じ三角形の面積でも、2007年度とは34ポイント近い差があります。国立教育政策研究所は、過去の問題では水平な辺を底辺とすることができたのに対し、今回は水平な辺を底辺とすることができないことによるものだと考えられる、と分析しています。

さらに、2012年度には「三角形の底辺に対応する高さを選ぶ」という問題が出ていて、正答率は54.9%でした。底辺×高さ÷2という公式自体は多くの子が覚えている。しかし、目の前の図のどこが底辺でどこが高さなのかを自分で決めることになると、急に難しくなる。この傾向は、10年以上前から続いている課題です。

公式を「下にある辺が底辺で、上にまっすぐ立っている線が高さ」という見た目とセットで覚えていると、図が回っただけでどこを見ればいいのか分からなくなります。分からなくなると、とりあえず問題に書いてある数字を全部使って式を作ってしまう。そう考えると、「3×4×5」が最も多かったことにも納得がいきます。

なお、この学年は4年生の終わりから5年生の初めにかけて、新型コロナウイルス感染症による一斉休校などを経験した子どもたちです。ただし、それが正答率にどう影響したかは、今回の資料からは分かりません。

解説スライド:2007年度89.5%、2009年度67.1%、2021年度55.4%
出典:国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査 報告書」をもとに作成

教育関係者が注目すべき3つの論点

1. 公式が「見た目」とセットで覚えられている

教科書やドリルの三角形は、多くが底辺を下にして描かれています。それ自体は悪いことではありません。ただ、その向きの図ばかりで練習していると、公式が図の形と結びついてしまい、向きが変わったとたんに使えなくなります。

2. カギは公式の「意味」=概念理解

ここが今回の核心です。大切なのは、公式の手順を覚えているかではなく、意味が分かっているかです。

そもそも、三角形の面積はなぜ「底辺×高さ÷2」なのか。今回の直角三角形でいえば、同じ三角形をもう1枚くるっと回してくっつけると、縦3cm・横4cmの長方形ができます。だから3×4で長方形の面積を出して、その半分。これが「÷2」の意味です。

この意味が分かっていれば、直角が上にあろうが下にあろうが関係ありません。直角をはさんでいる3cmと4cmが長方形の縦と横になると見えるので、5cmの辺はそもそも使う場面がない、と自然に分かります。

単位で考えても気づけます。面積は平方センチメートル、つまり長さ×長さです。3×4×5と長さを3回掛けると、出てくるのは立方センチメートル、体積になってしまいます。平面の図形の面積を聞かれているのに長さを3つ掛けるのはおかしい。ここに引っかかれるかどうかも、概念理解の差です。

報告書も、公式を覚えるだけでなく、公式を導き出す過程で、図形のどこの長さに着目すれば面積が求められるのかを理解することが重要だとしています。

3. 「考える力がない」と片付けない

同じ大問の(2)では、この直角三角形を2枚組み合わせた2つの図形の面積を比べる問題が出ています。並べ方が違っても面積は等しいと答えられた子は72.7%でした。図形をとらえる力が全くないわけではありません。足りないのは、それを公式の意味とつなげる経験のほうです。

この構造は、2026年度の調査でも同じでした。小6で「1.5倍」の関係を図から選ぶ問題が34.5%、中3で平行になる条件の角を選ぶ問題が49.6%。どちらも、公式や性質を知っていても、目の前の図の中でそれを当てはめられるかが問われた問題です。5年前の三角形の問題と今年の問題は、同じ課題を別の形で示していると言えます。

3つのうち、とくに重要なのは2番目の概念理解です。「÷2」の意味が分かっている子は、図が回っても、余計な数字が混ざっていても崩れません。逆に、手順だけで覚えた公式は、問題の見た目が少し変わるだけで使えなくなります。

解説スライド:直角三角形は長方形の半分。3×4(長方形)÷2(半分)=6

学校・塾・家庭でできること

国立教育政策研究所は、報告書の中で指導のポイントとして次の3つを挙げています。

  • 面積を求めるのに必要のない辺の長さも書き込んだ図を出して、必要な情報を選ぶ
  • 水平になっていない辺を底辺とする三角形や平行四辺形でも、面積を求められるようにする
  • 長さが足りない図を出して、あとどこの長さが分かれば求められるかを考える

これを踏まえて、塾や家庭ですぐにできることを3つ挙げます。

1つ目は、「なぜ÷2なの?」を子ども自身に説明させることです。 答えが合っていても、「どうして2で割ったの?」と一言聞いてみてください。同じ三角形を2枚合わせると長方形や平行四辺形になる、と図をかいて説明できれば、公式の意味が分かっています。言葉に詰まるようなら、手順だけで覚えている可能性があります。

2つ目は、使わない数字がある問題を解かせることです。 式を書く前に「この問題で使わない数字はどれ?」と聞いて、斜線を引かせます。今回の問題なら5cmです。あわせて「直角三角形は直角から探す」を口ぐせにしておくと、向きが変わっても迷いません。

3つ目は、手を動かして図形を回したり組み合わせたりする経験です。 折り紙やタングラムのように、図形を回したり組み合わせたりする遊びは、図形の感覚を育てます。家庭でもすぐにできることです。

まとめ

2021年度の全国学力調査で、3cm・4cm・5cmの直角三角形の面積を求める問題の正答率は55.4%でした。

最も多かった誤答は、3つの長さを全部使った「3×4×5」で約20%。図の向きの問題に加えて、どの数字を使えばいいのかを選べなかったことが大きなつまずきでした。

これは「考える力がない」という話ではありません。公式を図の見た目と手順で覚えていて、「÷2」の意味、つまり概念の理解まで届いていない。そこが本当の課題です。そして2026年度の調査でも、同じ構造の課題が見えています。

大人がヘロンの公式を披露するのも楽しい話題ですが、教育に関わる立場から見れば、「5人に1人が3つの数字を全部掛けた」という事実のほうが重く受け止めるべき点だと考えます。算数に限らず、公式の手順より公式の意味を大切にする指導が求められています。

参考資料

この記事は塾にどう効くか

制度の話ではないので、塾の運営に影響はありません。効いてくるのは授業の中身です。三角形の面積を正しく求められる子でも、「なぜ÷2なのか」を説明できないなら、図の向きや数字の出し方が変わった問題で崩れる可能性があります。

確かめ方は簡単です。答えが合っている子にも「どうして2で割ったの?」と一言聞く。これだけで、公式の意味まで分かっているかが見えます。

保護者への説明材料になるか

なります。「うちの子は計算はできるのに、文章題や図形で点が取れない」という相談は多く、その説明にそのまま使えます。報告書の数字(底辺が下の三角形なら89.5%、直角が上だと55.4%)を見せれば、問題の見た目が変わるだけで正答率が大きく下がることが伝わります。

そのうえで「塾では、答えだけでなく『なぜそうなるか』を説明させています」と伝えられれば、指導方針の説明にもなります。ただし、保護者の不安をあおる材料として使うのは避けたほうが誠実です。

指導・カリキュラムへの影響

教える範囲は変わりませんが、確認の仕方は見直す価値があります。国立教育政策研究所は、使わない長さも書き込んだ図や、水平でない辺を底辺とする図、長さが足りない図を使って「必要な情報を選ぶ」練習を勧めています。

プリントの三角形を回転させたものを混ぜる、式を書く前に「使わない数字」に斜線を引かせる、といった小さな工夫で足ります。中学の数学(図形の証明や関数のグラフ)でも同じ「図から必要な情報を選ぶ」力が問われるので、小学生のうちに習慣にしておく意味があります。

発信のネタとして使えるか

使えます。この話題はXで広く拡散しているので、「あの問題、うちの塾ではこう教えています」という切り口の記事やLINE配信は読まれやすいです。

おすすめは、実際の問題を載せて「お子さんに解かせてみてください。そのあと『なぜ÷2?』と聞いてみてください」と家庭で試せる形にすることです。塾の指導の考え方が、押しつけにならずに伝わります。

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