2026年2月27日、文部科学省の中央教育審議会「社会・地理歴史・公民ワーキンググループ」の第5回会議が開催されました。昨年9月の発足以来、次期学習指導要領(2030年度~小学校で順次全面実施)に向けた議論を重ねてきた本WGですが、今回はいよいよ「目標」と「高次の資質・能力」の具体案が大幅にブラッシュアップされ、さらに3名の委員からの発表を通じて「系統性・体系性」の論点が深掘りされました。

本記事では、第5回WGの配付資料をもとに、社会科・地理歴史・公民が「何をどう変えようとしているのか」を詳しく解説します。

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第5回WGの位置づけ――2つの議題と3名の委員発表

まず、今回の会議の全体像を確認しておきましょう。第5回WGの議題は大きく2つです。

議題1は「目標及び高次の資質・能力等の在り方について」。2月2日に開催された第14回教育課程企画特別部会で示された7つの精査観点を踏まえ、前回(第4回)WGの案をさらに修正した目標・見方考え方・高次の資質・能力の案が提示されました。

議題2は「系統性・体系性等の整理について」。ここでは3名の委員からの発表がありました。

  • 北川委員(歴史学者):国際的な観点から見た社会科に必要な視点

  • 韮塚委員(小川町教育委員会「おがわ学」コーディネーター、城西大学非常勤講師):地域学習の可能性と課題

  • 池委員(早稲田大学教育・総合科学学術院教授):地域調査の課題

つまり今回は、「資質・能力の構造化」をさらに精緻にする作業と、「地域学習・地域調査」の系統性を検討する作業が並行して行われた回だったわけです。


解説スライド:第5回WGの全体像/系統性・体系性等の整理

教育課程企画特別部会が示した「7つの精査観点」

今回の議論のベースとなったのが、2月2日の教育課程企画特別部会(第14回)で示された7つの精査観点です。これは社会科WGだけでなく全教科共通の視点ですが、社会科WGでは特に以下の点が重要視されました。

①資質・能力の深まりの可視化。「統合的な理解」が、個別の知識を単に要約したものにとどまっていないか。学びが深まったときの児童生徒の姿をイメージできるよう的確に描き出せているか、という観点です。

②分かりやすさ、シンプルさの一層の追究。「見方・考え方」や「高次の資質・能力」の記載が冗長だったり、理解が難しい用語が使われていないか。教師にとって分かりやすく、保護者や地域住民にも伝えやすいものになっているかが問われています。

③「高次の資質・能力」を踏まえた個別の資質・能力の精選。ここが非常に重要なポイントで、「現行の指導内容が全て等しく重要であると安易に判断しない」という留意事項が明記されました。つまり、内容の精選(=削減の可能性)に踏み込む方向が示されたということです。

④単元・授業づくりに活かすプロセスの可視化。構造化された資質・能力を、実際の授業にどう落とし込むかの「参考イメージ」を各教科で示す方針です。ただし前回改訂時の反省から、「単一の学習過程」を示すのではなく、教師の多様な単元・授業づくりを支える「足掛かり」として示すことが強調されています。

⑤用語の一層の整理。「高次の資質・能力」という用語について、学校現場では「レベルの高い高度な資質・能力」と誤解される懸念があるとされました。告示段階では「統合的な理解」「総合的な発揮」のみで説明し、「高次の資質・能力」という語はあえて使わない選択肢も示されています。

⑥教科書の在り方の検討。教科書会社から「高次の資質・能力をつかみ取りやすい教科書の具体的イメージが湧きにくい」という声が出ており、各WGでアイデア出しを行う方針です。また、調整授業時数制度の下で時数を下回った場合でも適切に指導可能な教科書編纂を促す仕組みづくりが、検定調査審議会で検討されます。

⑦構造化・表形式化・デジタル化・調整授業時数・個に応じた学習過程の関係性の整理。これら5つの方策が密接に関連していることを踏まえ、一体的に理解できるよう可視化する方針です。


解説スライド:●、教育課程企画特別部会の「7つの精査観点」

「見方・考え方」に"言説"が加わった――目標の具体案

第5回WGで提示された目標・見方考え方のイメージ案で最も目を引く変化は、新たな「見方・考え方」の定義に「言説」という語が加わったことです。

現行の学習指導要領では、社会的事象を「位置や空間的な広がり」「時期や時間の経過」などに着目して捉えるとされていますが、今回の案では「社会的事象やその言説を」と明記されました。これは小学校・中学校・高等学校のすべての校種で共通して導入されています。

具体的には、小学校では「社会的事象やその言説を、地域の空間的な広がり、時期や時間の経過、事象や人々の相互関係などに着目して捉え、よりよい社会の形成に向けて課題を多角的に考え、根拠に基づき公正に判断すること」とされています。

もう一つの重要な変更点は、「思考力・判断力・表現力等」に「自らの考えを問い返し、捉え直す力」(小学校)、「自らの考えを批判的に捉え直す力」(中学校・高等学校)が新たに追加されたことです。これはSNS時代における情報リテラシーや、メディアリテラシーの育成を意識した改訂と言えるでしょう。

また、「学びに向かう力、人間性等」では、「主体的かつ協働的に」という表現が全校種で明示されました。

なお小学校では、学年別目標を提示しない方向が示されています。表形式化にあたり、「統合的な理解」「総合的な発揮」との関係性で内容を整理するためです。

「高次の資質・能力」という用語が消える?

「見方・考え方」の変更と並んで注目すべきなのが、「高次の資質・能力」という用語自体の見直しです。各教科WGから「学校現場では単にレベルの高い高度な資質・能力として受け取られるのではないか」という懸念が出ていました。

そこで今回、2つの選択肢が示されています。選択肢Aは「より適切な語があればそれを用いる」。選択肢Bは「告示文の中ではあえて用いず、『統合的な理解』『総合的な発揮』のみで説明する」というものです。

つまり、「高次の資質・能力」という概念自体は検討の「足場」として引き続き使いつつも、最終的な学習指導要領の文面には載せない可能性があるということです。研修資料や教材開発でこの用語を使う際は、あくまで「検討段階の仮称」であることに留意が必要です。

解説スライド:「見方・考え方」に"言説”が入った/次期改訂案

小学校の高次の資質・能力が「4つの空間スケール」で再構造化

小学校社会科の高次の資質・能力については、大きな構造変更が提案されました。学年区分の骨格は維持しつつ、高次の資質・能力の構造を以下の4つの空間スケールに分類する方向です。

  1. 市区町村(仮称):身近な地域の学習(3年生中心)

  2. 都道府県(仮称):県内の特色、安全・防災、伝統文化(4年生中心)

  3. 国(仮称):国土・産業・政治・歴史(5・6年生)

  4. 世界・国際社会(仮称):グローバル化と日本の役割(6年生)

これは現行の学年ごとの整理から、空間的な広がりを軸にした整理への転換です。たとえば「市区町村」レベルでは、地域の地理的環境、生産・販売の仕事、安全を守る働きが一体的に位置づけられ、「統合的な理解」と「総合的な発揮」の内容も併せて整理されます。

解説スライド:南小学校:4つの空間スケールで再構造化

中学校については、地理的分野では「世界と日本の地域構成等に関する記載事項の整理」、公民的分野では「視点や概念的な枠組みに関する記載事項の整理」がそれぞれ行われています。中学校の分野横断の単元に関する高次の資質・能力は次回以降に検討する予定とされています。

高等学校では、地理歴史科・公民科ともに目標と見方・考え方の案が提示されました。地理総合、歴史総合、公共など各科目の具体案も示されていますが、小学校・中学校と同様に「言説」の追加と「批判的に捉え直す力」の明記が共通しています。


地域調査の実施率はわずか12%――委員発表が突きつけた現実

議題2の委員発表では、地域学習・地域調査の「理想と現実のギャップ」が浮き彫りになりました。

池委員(早稲田大学教授)は、地域調査の実施状況について以下のデータを示しました。

  • 小学校:3年生の実施率は約95%だが、「身近な地域」から「自分たちの市」に重点がシフトし、野外活動が減少傾向

  • 中学校:「地域調査の手法」での野外調査実施率は1年生で約12%、2年生で約11%

  • 高等学校:「地理総合」の地域調査実施率は約20%

つまり、学習指導要領で求められている地域調査が、中学校・高校ではほとんど実施されていないという深刻な実態です。池委員は、短時間でも効果的な2つのタイプのフィールドワークを提案しました。

1つは「見学型フィールドワーク」(1〜2時間で実施可能)。教師や地域人材が案内役を務めるもので、早稲田大学周辺での事例では、高田馬場跡や神田川の治水対策など、地形と土地利用の関係を1時間弱で学べる内容です。

もう1つは「探究型フィールドワーク」。静岡県三島市で高校生16名が参加した事例では、事前のオンラインミーティングでテーマを設定し、当日は見学型1時間+探究型2時間+まとめ・発表という構成で実施されています。

いずれの方式も、実施環境の整備(教員研修、教材共有の仕組みづくり)が必要であること、また地理と歴史の内容を融合させた社会科の総合性を活かすアプローチが有効であることが指摘されました。

解説スライド:約11%/約12%/約20%/野外開査実施率

韮塚委員は、埼玉県小川町で展開されている「おがわ学」の取り組みを紹介しました。これは小中高一貫で地域学習を展開するプログラムで、小学校が「小川の魅力に触れる・小川を知る」、中学校が「地域の人と交流し小川に参画する」、高校が「小川の課題を解決する」と、発達段階に応じて深化していく構成です。育成する力を10の力(観察力・分析力・傾聴力・疑問力・思考力・判断力・表現力・行動力・協働力・創造力)として明確化し、各教科と関連づけた指導計画を策定しています。

注目すべきは生徒アンケートの結果で、中学生の84%が「小川町に愛着や誇りを感じるようになった」と回答。一方で「問題点や解決策を考えたり討論する力がついた」に対する肯定的回答は67%にとどまっており、体験から探究への深化が課題であることもわかります。韮塚委員は、体験で終わらせない探究的な学びへの深化、教材の共有化・ブラッシュアップ、学校と地域をつなぐコーディネーターの活用が課題であることも指摘しました。

北川委員は、国際的な観点から、社会科に必要な視点として、「我が国の公民」から「現代のWe」への転換を提案しました。現代のクラスルームの多様性に対応し、「何を教えたか」から「何を一緒に考えさせたか」への発想の転換が必要だと述べています。また、AI発展による学習方法の急速な変化や、宇宙産業などの新たな産業の発展を加味すべきとの指摘もありました。

解説スライド:/3名の委員発表 ハイライト/北川委員

教育関係者が注目すべき5つのポイント

ここまでの内容を踏まえ、教育関係者にとって特に重要なポイントを整理します。

第1に、「見方・考え方」に「言説」が入ったこと。 これは社会的事象そのものだけでなく、事象について語られる言説(ニュース報道、SNSの意見、歴史的解釈など)も批判的に検討する力の育成を求めるものです。情報リテラシー教育との接続が一層重要になります。

第2に、「高次の資質・能力」という用語自体が消える可能性があること。 前述の通り、告示文では「統合的な理解」「総合的な発揮」のみで説明する選択肢が示されています。研修や教材開発で今後この用語を使う際は、あくまで「検討段階の仮称」であることに留意が必要です。

第3に、教科書の精選が具体的に動き始めていること。 調整授業時数制度の下で時数を下回っても指導可能な教科書編纂を促す仕組みづくりが、検定調査審議会で検討されます。教科書が薄くなる可能性があるということです。

第4に、地域調査の実施率の低さが改めて可視化されたこと。 中学校で12%という数字は、次期学習指導要領で地域調査をどう位置づけるかに大きな影響を与えるでしょう。短時間のフィールドワーク事例や地域人材活用の仕組みが、具体的な解決策として提示されました。

第5に、小学校の「4つの空間スケール」による再構造化。 これは教科書の単元構成や年間指導計画に直結する変更です。現行の学年ベースの整理から空間スケールベースの整理への移行は、教材開発にも大きな影響があります。

解説スライド:教育関係者が押さえるべき5つのポイント

今後のスケジュール

社会科WGの議論は今後も続きます。中学校社会科の分野横断の単元に関する高次の資質・能力は次回以降に検討予定です。また、各WGの検討結果は総則・評価特別部会に報告され、全教科横断的な調整が行われます。

全体のスケジュールとしては、2026年中に中教審答申、その後2027〜2028年に新学習指導要領の告示、2030年度から小学校で全面実施、2031年度に中学校、2032年度に高等学校(年次進行)という流れが想定されています。


まとめ

第5回WGでは、教育課程企画特別部会の7つの精査観点を踏まえた目標・資質能力の具体案が大幅に更新されるとともに、地域学習・地域調査の系統性について実践者・研究者からの具体的な提言がなされました。「見方・考え方」への「言説」の追加、「批判的に捉え直す力」の明記、小学校の空間スケールによる再構造化など、次期学習指導要領の輪郭がかなり明確になってきています。

一方で、地域調査の実施率の低さや、「高次の資質・能力」の用語をめぐる議論など、実装面での課題も依然として残っています。今後の議論の動向を引き続き注視していく必要があります。


参考資料


この記事は塾にどう効くか

暗記中心の指導だけでは合わなくなる方向です。“言説”を吟味する視点が加わるということは、資料を読んで「なぜそう言われているのか」を考えさせる問いが増えるということです。

ただし当面は変わりません。2030年度以降の話です。

保護者への説明材料になるか

面談で使う機会は限られます。制度の細部が中心の内容です。

使うとすれば「社会は覚えるだけの教科ではなくなります」という一言で、指導方針を説明する背景としてです。

指導・カリキュラムへの影響

記述問題の扱い方に応用できます。用語を覚えさせるだけでなく、資料から読み取ったことを一文で書かせる練習を入れておくと、方向に合います。

地域調査の実施率が12%という現場の実態も報告されています。学校でやりきれない部分は、塾が補える余地でもあります。

発信のネタとして使えるか

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書くなら「社会の勉強法」という括りにして、暗記だけでは伸びない理由の背景として引用するのが自然です。

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