「反復練習は、デジタル教科書に載せる内容として不適切」。この見出しだけを見ると、文部科学省が反復練習そのものを否定したように感じるかもしれません。
しかし、文科省が2026年9月2日に教科用図書検定調査審議会の総括部会へ示した資料を読むと、論点は別のところにあります。
検討されているのは、学校で全員が使う「検定教科書」の中に何を含め、演習問題や入試対策などを補助教材へどう分けるかという線引きです。反復練習をしてはいけないという話ではありません。
この記事では、文科省の「資料01-1」を全体の骨格に、「資料01-2」を具体例の確認に使い、教科書に入るもの、入れないと想定されているもの、まだ結論が出ていないものを整理します。
解説動画でも、文科省資料の該当箇所を画面に出しながら説明しています。デジタル教科書はどこまで「教科書」か|文科省・検定見直し骨子案を解説
| 区分 | 主な例 | 現段階の整理 |
|---|---|---|
| 教科書に入る | シミュレーション、実験・技能動画、外国語音声 | 掲載を認める想定 |
| 補助教材へ分ける | 大量演習、入試問題、網羅的データ、授業代替動画 | 教科書本体には掲載しない想定 |
| 未決定 | AIの搭載、動画総量の具体的な上限 | 今後の検討課題 |
出典:文部科学省「資料01-1」「資料01-2」をもとにスマ塾編集部が整理。いずれも正式決定ではなく骨子案です。
反復練習は本当に「不適切」なのか?
反復練習そのものを教育的に不適切としたわけではありません。対象は「理解を深めるための類題の域を超えた、大量の練習問題」です。
資料01-2で「教科書としての掲載は認められないと想定されるコンテンツの例」に挙げられたのは、「理解を深めるための類題の域を超えた、反復練習のための大量の練習問題」です。
つまり、教科書で学んだ内容を定着させるために類題を扱うことは否定されていません。その範囲を超え、教科書本体を大量の演習問題集にすることは想定しない、という整理です。
同じ箇所には、入学試験や資格試験の問題も挙げられています。これらを学校や塾で使ってはいけないのではなく、国の検定を経て全員が共通して使う教科書本体に、どこまで入れるのかが議論されています。
なぜデジタル教科書に載せる内容を絞るのか?
資料が示す基本原則は、デジタルになっても教科書の役割は変えない、というものです。
教科書は、学習指導要領に基づく「主たる教材」です。デジタルだから便利な機能や多くの教材を何でも入れるのではなく、教科書として必要かどうかを審査する考え方が土台にあります。
デジタルコンテンツを教科書に掲載する条件として、骨子案は主に次の3点を示しています。
- 教科の本質的な理解に必要であること
- 学習で使う目的と方法が明確であること
- 原則として授業時間内に使うことが想定されていること
この3条件で見ると、「紙では伝えにくい理解を助けるもの」と「理解後の演習や発展のための教材」を分けようとしていることが分かります。
教科書に入るデジタルコンテンツは何か?
紙では伝えにくい動きや音を補い、児童生徒が授業の中で理解・活動するために使うものです。
教科書への掲載が認められると想定されているのは、紙だけでは十分に表しにくい動きや音を補い、授業の中で理解や活動を支えるものです。
資料01-2では、次のような例が挙げられています。
- 図形やグラフなどを操作するシミュレーション
- 実験や観察の方法、器具の使い方を示す動画
- 楽器演奏、調理、縫製、運動などの技能動画
- 外国語の発音などを聞くための音声
共通するのは、デジタルである必然性があり、児童生徒が授業中に活動するために使う点です。
教科書本体から分ける想定のものは何か?
大量の反復練習、入試問題、網羅的なデータ、授業を代替する講義動画などです。利用禁止ではなく、教科書本体との分離です。
一方、骨子案は、教科書本体へ掲載しないと想定される例も示しています。
- 類題の範囲を超えた大量の反復練習問題
- 入学試験や資格試験の問題
- 網羅的な図鑑やデータベース
- 教科の本質的な理解との関係が薄いゲームや漫画
- 授業中に扱うことを想定しない参考情報の羅列
- 教師に代わって授業そのものを説明する講義・解説動画
重要なのは、これらの教材としての価値を否定しているわけではないことです。
実験手順や技能の動画は、児童生徒が活動するための支援なので教科書に入る想定です。一方、紙面の内容を教師に代わって説明し、授業そのものを置き換える動画は、教科書本体とは分ける方向です。
判断基準は「動画かどうか」ではなく、「教科書の役割に当たるかどうか」です。
AIや動画時間は決まったのか?
どちらも結論は出ていません。AIは検定方法などを今後検討し、動画は総量に上限を設ける方向だけが示されています。
AIを搭載したデジタル教科書が認められると決まったわけではありません。
資料で示されたのは、AIを教科書に載せる必要性、対象とするAI、性能や信頼性、出力の正確さ、検定の基準・方法・体制などを今後整理する必要がある、という論点です。
また、資料には「合計5時間を超える動画」の例が出てきますが、これは新しい上限を5時間に決めた文章ではありません。現行の紙の教科書に付いた二次元コードの参照先で、1点の教科書あたり5時間を超える動画があるという現状例です。
骨子案は動画総量に上限を設ける方向を示していますが、具体的な時間はまだ決まっていません。
外部サイトや更新にもルールを設ける方向
教科書として掲載するデジタルコンテンツは、教科書発行者が責任をもって編修・管理できるものに限定し、外部ウェブサイトや教科書ではない教材へのリンクは認めない方向が示されています。
また、デジタル部分にもページ番号を付けること、紙とデジタルの不要な重複を抑えること、学習内容に影響する更新は長期休暇中などに行うことも検討されています。
デジタルだから自由に増やしたり、いつでも変えたりするのではありません。どこまでが検定を受けた教科書なのか、誰が内容を管理するのか、授業で同じ内容を安定して学べるかを明確にするための整理です。
塾にとって何が変わるのか?
今回の骨子案だけで、すぐに塾の指導が変わるわけではありません。正式な検定基準はまだ決まっておらず、今後の審議で内容が変わる可能性があります。
ただし、方向性が具体化すれば、学校で全員が使う教科書と、補助教材の役割分担は今まで以上に明確になります。
教科書は、本質的な理解と授業内の共通学習を担う。大量の演習、入試対策、詳しい解説、個別の習熟度に合わせた学習は、問題集、デジタル教材、家庭学習、塾などが担う。この分担です。
塾にとって反復練習が不要になるのではありません。むしろ、教科書で理解した内容を、どの量、どの難度、どの順番で定着させるかという設計が、補助教材を扱う側の役割として見えやすくなります。
保護者へ説明するときも、「文科省が反復練習を不適切とした」と伝えるのは正確ではありません。「大量の反復練習問題は、検定教科書本体ではなく補助教材へ分ける方向が示された」と説明するのが適切です。
これは正式決定ではなく「骨子案」
今回確認した資料は、2026年9月2日の教科用図書検定調査審議会総括部会で配付された「教科書検定の改善に関する方向性(骨子案)」です。
正式に決まった新しい検定基準ではありません。今後の審議で修正される可能性があり、AIの扱いや動画の具体的な上限時間など、結論が出ていない項目もあります。
見出しの強い言葉だけで判断せず、何が教科書に入るのか、何が補助教材へ分けられるのか、何が未決定なのかを分けて読む必要があります。
まとめ
- 反復練習そのものが不適切とされたわけではない
- 類題の範囲を超えた大量の反復練習問題は、教科書本体へ載せない想定
- 紙では伝えにくい動きや音を補うコンテンツは、教科書に入る想定
- AIの搭載や動画の具体的な上限時間は、まだ未決定
- 議論の焦点は、検定教科書と補助教材の境界をどこに置くか
教科書から分けられる学びを、学校、家庭、塾、教材会社がどう支えるのか。今回の骨子案は、デジタル教科書の機能だけでなく、これからの教材の役割分担を考える資料だと言えます。
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参考資料
※本記事は2026年9月8日時点で公開されている資料をもとに作成しています。
この記事は塾にどう効くか
反復練習が不要になる話ではありません。教科書は本質的な理解と授業内の共通学習に絞り、類題の範囲を超えた大量演習や入試対策は補助教材へ分ける方向が示されています。
塾には、教科書で理解した内容を、どの量・難度・順番で定着させるかという学習設計の役割が残ります。ただし、現時点では正式決定ではなく骨子案です。
保護者への説明材料になるか
使えます。ただし『文科省が反復練習を不適切とした』という説明は正確ではありません。『類題の範囲を超えた大量の練習問題は、検定教科書本体ではなく補助教材へ分ける案』と伝えてください。
保護者には、学校の教科書で理解する部分と、塾で定着・演習する部分を分け、自塾がどのように学習量と難度を調整するのかまで示すと、役割が伝わりやすくなります。
指導・カリキュラムへの影響
現行の指導を直ちに変える必要はありません。一方、教材を増やすこと自体ではなく、生徒の理解度に応じて必要な反復量を決め、誤答を次の指導へつなぐ設計がより重要になります。
学校の教科書、問題集、デジタル教材、入試対策教材の役割を整理し、同じ内容を重ねるだけになっていないかを点検する材料にできます。
発信のネタとして使えるか
使えます。『反復練習は本当に不適切なのか』を入口にしつつ、見出しの訂正だけで終わらず、自塾が理解と定着をどう分けているかを説明してください。
骨子案を正式決定のように断定せず、教科書に入るもの、補助教材へ分けるもの、AIや動画上限など未決定のものを分けて書くことが信頼につながります。
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